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なぜマンション管理員が集まらない?不動産業界に求められるDXの解決策

マンション管理業界が、深刻な人材不足に直面している。特に建物の維持管理や居住者とのコミュニケーションを担う「管理員」の不足は、サービスの質の低下や業務効率の悪化を招いている。この課題に対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)で解決策を見出そうとする動きが広がっている。管理員不足の背景、現状、そして未来について、不動産DXサービス「Musubell for 管理」を提供する担当者に話を聞いた。


<Speaker>
株式会社デジタルガレージ Musubell事業部
岩坂 昌倫

(所属・肩書は公開時点)


深刻化する管理員不足が及ぼす不動産業界への影響

管理員不足の状況は管理会社や業務内容によって異なるものの、岩坂氏によると業界全体で15〜20%程度不足していると言われているという。その背景には、法改正の影響があるそうだ。

「マンション管理員は60代〜70代の高齢の方が従事されているケースが多く、多くの方が、現役引退後に再雇用や再就職という形で管理員に就かれています。高年齢者雇用安定法の改正により、定年が65歳まで引き上げられ、その後も70歳までの就業機会確保が努力義務とされました。これにより、以前は60歳以上が中心だった管理員の職に就く層が、現役の仕事に長く留まるようになり、結果として管理員になり得る層が減少しています。

また、管理員の仕事は3K(きつい、汚い、危険)と言われる側面もあり、それが採用を難しくしている要因の一つと考えられます。さらに、シニア層の働く選択肢が増えたことで、以前ほど管理員という職種が選ばれにくくなっているという話もよく聞きます」

管理員の最も大きな仕事は建物の維持管理だが、これには清掃や共用部分の電球交換など、現地で行う必要のある業務が含まれる。管理員が不足すると、こういった業務に目が届きにくくなり、建物の適正な維持管理が物理的に難しくなる。「結果として、居住者の方はサービスレベルの低下を感じたり、不安感が増したり、クレームが増加する傾向にあります。管理会社から見ると、管理員を採用できない状況は採用コストの上昇を招き、収支が悪化するケースも見られます」

さらには管理会社のフロント担当も人材不足で、本来担当者がやるべき業務を管理員に依頼するケースもあるという。「フロント担当は担当物件数が多く、未経験者も増えている中で、業務の引き継ぎや教育が追いついていない現状もあります。管理員がフロント担当の業務を兼ねることで、管理員の業務範囲はさらに広がり、本来の清掃や居住者満足度向上のための業務がおろそかになる可能性も出てきています」

人材不足は単なる数の問題にとどまらず、建物の維持管理品質の低下、居住者サービスの悪化、管理会社の収支圧迫など、業界全体に連鎖的な影響を及ぼしているのだ。

DXで、管理員業務は常駐から「巡回型」に変わる

管理員不足という構造課題に対して、不動産管理業界ではDXの力を活用した解決策が模索されている。では、テクノロジーの導入によって、管理員の業務は具体的にどのように変わっていくのだろうか。岩坂氏は、次のように語る。

「例えば建物の管理でいうと、管理員がいることで安全性が確保されたり、異常を検知したりする部分があります。これに対しては、防犯カメラがオンラインで異常検知をする機能が進化していますし、清掃ロボットなども、オフィスビルや商業施設で採用されているケースがあります。
また、顔認識で出入りする人の顔を認識し、これまで来ていなかった人を検知するなどの施策は、マンションのエントランスなどへの活用も考えられます」

さらに、居住者からの問い合わせ対応といった、これまで管理員が対面で担っていた業務にも変化が起きつつある。「ゴミの捨て方などの居住者からよくある質問に対しては、AIを活用したチャットボットで回答を返す、という取り組みは進んでいて、事前にマンションごとの管理規約やルール、エリアごとのゴミ出しルールなどをAIに学習させることで、その建物に住んでいる方に対して適切な回答ができるようになれば居住者の利便性も高まります」

こうしたテクノロジーの導入によって、不動産業界では従来の「常駐型管理員」から「巡回型管理員」への移行が進み、業務の抜本的な見直しが求められるようになると岩坂氏は指摘する。

「管理員や管理会社の業務は、未だに紙でのやり取りが多いのが現状です。マンションには管理組合があり、理事長や理事の方々がいます。管理会社は日常業務に加え、管理組合の会計報告や業務報告なども定期的に行います。管理員もこうした業務に携わることがあったり、また居住者からの各種手続きを紙の書類で受け付け、管理会社や理事長の承認を得る役割を担うケースもあります。こうした紙やFAX、電話でのやり取りをオンライン化し、管理員が現地に赴く必要のある業務に集中できるようになれば、業務効率化は進むと考えられます」

一方で、管理員の多くが高齢者であることもあり、DXには慎重な姿勢が求められるという。「管理員は単に建物の管理だけでなく、居住者の見守りや話し相手といった人間的なコミュニケーションや安心感を提供する役割も担っています。全てをデジタルに置き換えることは難しく、建物ごとの特性に合わせて、DXと対面対応のバランスを取ることが重要だと考えています」

電子契約によりペーパーレス化を実現する「Musubell for 管理」

こうした現場の課題に対し、テクノロジーで現実的な解決策を提示しているのが、不動産DXサービス「Musubell for 管理」だ。管理会社の業務効率化を支援するサービスで、ペーパー業務からの脱却を支援し、管理員、居住者、管理組合、協力会社といったさまざまな関係者間のやり取りをデジタル化することを目指している。

「Musubell自体は元々、マンションデベロッパー向けのサービスからスタートしました。グループ内に管理会社を持つデベロッパーの声を聞く中で、管理会社の業務、特にペーパーメインでDX化が遅れている現状を課題として認識したことがサービス開発のきっかけです。管理会社の業務オペレーションを深く理解するため、100社近い管理会社にヒアリングを行い、共通の課題を解決できる汎用的な機能を見定めながら開発を進めました」

「Musubell for 管理」の機能面での特徴に、電子契約機能がある。管理組合との業務委託契約や業者との契約など、不動産業界特有の契約業務を電子化できる。

また、特に注力しているのが法令対応の標準化だ。マンション管理適正化法や区分所有法など、関連法規で定められた書面交付義務に対し、電磁的交付の要件を満たす形で標準対応しています。役所や業界団体とも連携しながら開発を進めており、経験の浅いフロント担当者でも、法令を遵守した業務ができるようになる。「これにより、一定の業務品質を保ち、人材育成の負担軽減や管理業界の活性化にも貢献できると考えています」と、岩坂氏はその意義を説明する。

さらに、利用者には高齢の管理員も含まれるため、UI/UXには特に注力して開発しているという。誰でも使いやすく汎用的な機能をSaaSで提供することで、比較的低額での導入を可能にし、自社開発で課題となりがちな法改正時のアップデートコストなどを抑えられる。

「『Musubell for 管理』の最も大きなコンセプトは、マンションや建物に住んでいる方がより豊かな暮らしを送れるようにすることです。建物を管理する管理会社が業務の見直しやデジタル活用をしていくことを通じて、居住者の方に『ここに住んでいて良かった』と思ってもらえるようなサービスを提供できるよう支援します」

暮らしの基盤となる不動産を、より豊かにしていくために

不動産管理業務の効率化を起点に、「Musubell for 管理」はどのような未来を描こうとしているのか。今後の展望と不動産業界におけるテクノロジーの可能性について、岩坂氏に語ってもらった。

「今後は決済機能の取り込みを進めていき、前述の共用施設利用料などの小口現金決済も検討しています。例えば、仲介会社と管理会社の間で行われる重要事項調査報告書等の発行手数料のやり取りにおいては決済機能を組み込み、ATM振込やFAXといったアナログな方法をオンライン決済に置き換えることで、業務効率化を実現した事例もあります。

また、管理組合の口座管理や、銀行との手続きがまだアナログな部分が多いのですが、パートナー企業さまが提供する電子承認サービスなどとの連携は相性が良いと考えています。AIの活用も進めていき、特に総会や理事会の議事録作成支援など、管理会社のバックオフィス業務の効率化に貢献したいと考えています」

今年の夏からは居住者向けのサービスも展開する予定だ。各種申請のオンライン化や、マンション内のお知らせ配信をスマートフォンから受け取れるようにするなど、居住者の利便性を高める機能を提供する。

「不動産は暮らしの基盤となる部分です。まずは管理会社の業務効率化を支援し、人材不足といった課題解決に貢献します。そして、管理業務の効率化によって生まれた余力で、より居住者の方の満足度を高めるサービスを提供し、最終的にマンションに住む人々の暮らしをより豊かにすることを目指します。

不動産業界のDX化はまだ発展途上であり、バックオフィス業務など効率化できる領域は多く残されています。テクノロジーの活用と、管理員が担ってきたサービスのバランスを取りながら、より良いマンション管理の実現、そして不動産を通じた豊かな暮らしの実現に向けた取り組みを進めていきたいと考えています」

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