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世界で挑戦する起業家たちが次々と育ちつつある日本。その流れを牽引してきたのが、日本初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」だ。2010年の創設から15年の間に160社以上のスタートアップを育成し、ユニコーンやIPO企業など国内外で急成長する企業を輩出してきた。
その設立の背後には、「失敗を恐れず、互いに支え合いながら、世界に挑戦する起業家を育てたい」という創設者たちの揺るぎない信念があった。2025年6月に開催されたOnlab15周年パーティーのオープニングでは、Onlabを立ち上げたデジタルガレージ創業者の林郁氏と伊藤穰一氏が登壇し、これまでの歩みと今後の展望について対談した。本記事ではその様子をお届けする。
Onlabは、デジタルガレージ創業者の林氏と伊藤氏が「世界に通用するスタートアップの育成が必要だ」と考えて立ち上げた、日本初のシードアクセラレータープログラムだ。その原点はアメリカでの経験だったと、林氏は振り返る。
「当時、日本ではベンチャーキャピタリストが『どうリスクを回避して投資できるか』という話をしていた一方、アメリカ西海岸を訪れたら『君たちの会社いいね』とすぐに出資してくれ、先輩起業家やIT企業がスタートアップを応援してくれるようなエコシステムがありました。この両極端な状況を目の当たりにして、日本で、自分たちでシードアクセラレーションプログラムをやるべきではないか、と思って始めたのがOnlabでした」
伊藤氏はOnlabを設立した2010年当時の環境をこう語る。 「インターネットの時代でネットワーク化されていく中で、大企業とスタートアップがつながるコミュニティを作るべきだよね、という話を当時よくしていました。デジタルガレージがそんなオープンネットワークのプラットフォームを担うという視点もあったし、クリエイティブ・コモンズやユーザー生成コンテンツなど、オープンにアクセスできるインターネットサービスやコンテンツの中での新しいベンチャーのあり方を考えていました」
「起業家」という存在が日本でまだ一般的ではなかったころから、Onlabは資金やコワーキングスペースの提供、メンタリング、投資家・先輩起業家とのネットワーキングなど、スタートアップに必要な支援を多角的に行ってきた。Onlabはいつしか起業家にとって登竜門のような存在となり、15年の間に160社がプログラムを卒業。2015年にOnlabが採択したクラウド人事労務ソフトを提供する「SmartHR」は現在ユニコーン企業に成長しているが、このアイデアは、彼らがOnlabプログラム期間中にユーザーヒアリングを通じて見つけたものだった。
伊藤氏は「最近『この会社おもしろいな』と思うと、それが実はOnlab出身だった、ということが増えています。それがうまくいっている証拠ではないか、と感じています」と、その手応えを語る。
多くの起業家を支援してきた中で、「成功するスタートアップの資質」を問われると、林氏は「社会善」と「タイミング」の2つの要素を挙げた。
「少し青臭いかもしれませんが、まず社会善。社会全体に応援してもらえるようなビジネスは長く続きますが、一瞬だけ儲かっても結局後で続かなくなってしまいます。それから、タイミングが大事。AmazonやGoogle、そしてカカクコムも今のように成功している理由は、タイミングが良かった要素も大きいです。サーフィンのように、早すぎてもだめ、遅すぎてもだめ。最初にフィールドに入っていける根性や信念を持った企業が市場を獲っていくということなのだと思います。常にそこを意識しながら投資やアドバイスをしています。特にこういう“不確実な要素が多い時代”には、また多くのチャンスが出てきているはずです」
新たな道を切り拓いていく起業と経営のプロセスは、常に困難=ハードシングスに満ちている。林氏は自身の経営経験のなかで「麻酔なしで立ったまま内臓の入れ替え手術をされているような日々が続いたこともあった」と振り返りながら、「ハードシングスのない経営なんてない。それを楽しめるかどうかだと思っています。“ハードシングス”だと思わず、ただの“シングス”と捉えること」と会場にメッセージを送った。そしてデジタルガレージの企業理念でもある、Timothy Learyの “Think for yourself and question authority”(自分で考えよ。そして常識を疑え) の言葉を引用し、こう続けた。
「私たちは今の状態が明日もずっと同じように続くと思いがちですが、そうではありません。国際情勢は新型コロナのように突然変化が起きるし 『常識』も変わる。常に『常識とは何か』を自分に問いかけ、良いケース、悪いケース、最悪のケース、と何通りもの答えを想定しながら、コンパスを持って動くべきだと思います」
伊藤氏は“authority”を「権威」と捉え、「権威を疑うこと」も起業家の重要な要素だと語った。「これまでの日本は言われたことをきちんとこなす人間を作るのが大学であり、権威に従うのが美学とされている。でもそれだとノーベル賞は獲れないし、いいベンチャーもできない。ファウンダーやスタートアップは権威を疑うのも大事なことで、『だめだ』と言われたことに逆らってでも進むくらいの力がないと、スタートアップは成功しないと思います。
先日、中国の起業家と話していたら、中国では『必ず方法はある』という意味のことわざがあるのだとか。日本では『難しいですね』と口にする人が多いですが、起業家にとっては、この『必ず方法はある』という、少しやんちゃなマインドが非常に大切だと思います。企業が大きくなればなるほど、コンプライアンスなどで動きにくくなってしまう。だからこそ、ベンチャーは柔軟に工夫していかなくてはいけません」
日本の起業文化を形作ってきたOnlab。始動から15年が経ち、卒業生の中には米国シリコンバレー拠点のアクセラレーションプログラム「Y Combinator」に日本人として初めて採択され、10年以上米国で福利厚生SaaSを提供した「Fond Technologies (現RewardGateway傘下)」など、海外で活躍するスタートアップも複数登場してきた。国内のみならず、海外でビジネスをスケールさせるための起業支援も手厚く行われている。
林氏は海外に挑戦するスタートアップの増加に期待を寄せ、「失敗の厚みが足りないから日本は勝てないのだと思う。失敗することの美学ってあるし、失敗は楽しい。どんどん失敗しながら海外に出て、Onlabのスタートアップや国内の起業家が筋肉質になっていくといいなと思う」と語った。
伊藤氏は 「日本はこれから人口が減少していくし、LLMの進化によって言語の壁もなくなってくるかもしれない。海外から日本へ進出したい起業家も支援し、グローバルネットワークの中でのOnlabの貢献を高めていけたら」と今後の展望を語り、対談を締め括った。
2025年冬には、シード期のスタートアップ企業を対象としたアクセラレータープログラムの募集を開始予定だ。このプログラムは、創業初期のスタートアップに向けた3ヶ月間の集中支援が特徴で、採択されたスタートアップには、事業を加速させるための資金と、Onlabが15年間で培ってきた知見に基づいた伴走型のメンタリングを提供している。
グローバル市場での展開を目指す、革新的なプロダクトやサービスを持つスタートアップ。社会課題を解決し、大きなインパクトを生み出したいと考えている起業家。既存の枠にとらわれず、新しい常識を創り出そうとする情熱を持ったファウンダーには、ぜひOnlabのウェブサイトをご覧いただきたい。