DG Mail
DGメールとはデジタルガレージグループの最新ニュースをお届けするメール配信サービスです。
DGメールの配信をご希望の方は、フォームよりお申し込みください。
Designing
New Context
Designing
New Context
投資によって社会や環境にどのように好影響を与えられるかを重視する「インパクト投資」の市場が近年世界的に急拡大し、注目を集めつつある。「インパクト投資」とは、どのような投資手法を指すのか。そして、日本では今後どのように普及していくのだろうか。インパクト志向のファンド立ち上げに携わる株式会社DGインキュベーションの堤世良氏にインタビューし、その現状と可能性を聞いた。
<Speaker>
株式会社DGインキュベーション 投資第一部 シニアプリンシパル
堤 世良
米/ウェスリアン大学卒。三井物産でアメリカや東南アジアの不動産開発、森林・植林関連事業等の事業開発に従事。スペイン/IE Business Schoolでサステナビリティやインパクト投資領域を中心に、MBAを取得し、2021年よりデジタルガレージにて、ESG・サステナビリティの新規事業の創出と、インパクト含むスタートアップの投資・支援等を行う。インパクト志向金融宣言運営委員、VC分科会共同座長。CFA Institute Certificate in ESG Investing取得。
(所属・肩書は公開時点)
インパクト投資を推進する国際ネットワークの一員・GSG Impact JAPANによると、インパクト投資とは「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動」を指す。
これまで、投資行動は「リスク」と「リターン」の二軸で判断されてきた。インパクト投資はそこに社会への影響「インパクト」という第三の物差しを加えるものだ。社会や環境によりよい影響を与える事業に資金を振り向け、投資が与える社会への効果を測ろうとする点にその新しさがある。
GSG Impact JAPANによれば、その要件は①社会面・環境面の課題解決への貢献の意図があること②財務的リターンを目指すこと③広範なアセットクラスを含むこと④インパクト評価を行うこと、の4つだ。目指す方向性としては、持続可能な社会の実現に取り組む企業に投資する「ESG投資」と重なる面もあるが、インパクト投資は投資による社会・環境の課題解決をより積極的に意図し、その評価を定量的・定性的に計測しようとする面が特徴的だ。
このような性格を持つインパクト投資は、国際的に急成長している。2013年6月の先進国首脳会議(G8サミット)では「G8インパクト投資タスクフォース」が創設され、世界規模で推進体制が整った。それから10年余りの間に市場は拡大を続け、2024年にはGlobal Impact Investing Network(GIIN)が世界全体のインパクト投資の推定運用資産額を1兆5710億米ドルと発表し、初めて1.5兆ドルの大台を超えた。収益を前提にしつつも、社会や環境における測定可能な成果を同時に追求しようとするという枠組みは、投資家に新たな評価軸として認識されつつある。
インパクト投資は日本でも拡大しつつある。GSG Impact JAPANが発表した推計によると、2024年度の国内インパクト投資残高は17兆3016億円に達し、前年比で150%増という急伸を示した。インパクト投資に取り組む機関の数も2020年度以降、5年連続で増加している。ただしその数はまだ59にとどまっており、普及という観点では道半ばだ。
そんな中、日本でインパクト投資を広めようと挑戦を始めた人がいる。DGインキュベーションの堤世良氏は、2025年5月に新しい「インパクト志向ファンド」を設立し、現在ファイナルクローズに向けて準備中だ。その経緯や、これからの展望について聞いた。
堤氏は新卒で三井物産に入社。休職してMBA取得のため留学した大学院で、社会課題の解決に取り組む「インパクトスタートアップ」の存在を知り、関心を抱くようになったという。
「印象的だった企業の一つに、アフリカで事業をするアメリカのスタートアップ『Zipline』があります。アフリカの過疎地では、通常の出産でも十分な医療を受けられず命を落とす、そんな毎日があります。そこでZiplineは、輸血などの医療品を小型飛行機のドローンに積み、10分ほどで指定した目的地の病院に到着。医療品のパラシュートを落とし、自動で帰ってくる。そんなサービスを提供しています。過疎地の医療現場が最新の技術で支えられている。画期的だと思いました。世の中にはこんな面白いビジネスがある。私はこのとき、インパクトスタートアップを支援して、無限の可能性を広げて行きたい、とインパクト投資に惹かれたんです」
帰国した堤氏は、社会・環境課題に根ざした投資を志向する中でデジタルガレージに入社した。同社はこれまで、Facebook(現Meta)やTwitter(現X)といった有望な海外スタートアップに初期段階から投資を行ってきたほか、日本初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」を立ち上げ、社会課題解決を目指す数多くのスタートアップを輩出してきた。入社後も、社内には専門性と熱意を持った社員が揃い、日本のスタートアップシーンを支えている企業だと感じたという。
「まだ業界・社会にあまり例のないような取り組みを実行するための、専門集団だと思ってます。それぞれが新しいことをしたいという想いを持って新しい領域を開拓しているからこそ、先駆者的な取り組みができるのだと思います。事業においてはもちろんですが、投資に関しても、新しい投資やスタートアップ成長のあり方に常に挑戦しているんです。こうした社風は相当ユニークで、魅力だと思います」
ただ、デジタルガレージは元々インパクト投資をしていたわけではなく、「ここでインパクト投資をするのは正直難しいかなという気持ちもあった」という。そんな思いをチームメンバーに相談すると、「新しいファンドでやってみたら?」と背中を押された。
「デジタルガレージは伝統的な投資のイメージが強く、特に当時はまだインパクト投資に対するノウハウも社内の理解も限定的でした。でも、黎明期のインパクト投資と、デジタルガレージの新しいことに挑戦する社風が良い化学反応を起こしたんだと思います。私自身はインパクト投資ファンドを設計した経験もなく、正直考えてもいなかったのですが、デジタルガレージ・GIIセグメントの、ファンド組成、法務、金融、経営、技術といった人材がいたからこそ、チームワークでこのファンドを設計することができました。これまでの経験の数々が一本の線となって、私たちの理想を形にしたインパクト志向ファンドを組成し、そしてついに、実際にインパクト投資をするというところまでやってくることができました」
その成果はデジタルガレージの「Open Network Lab2号ファンド」として結実し、2025年5月に始動した。堤氏は「新時代を創造する起業家と共に挑戦し、次世代の日本を作ることを意図して作りました。こうしたインパクト志向のファンドは海外では事例が出てきていますが、日本ではまだ例を見ないユニークなファンドです」と、その先進性を語る。
デジタルガレージはこれまでも社会課題解決につながるスタートアップへの支援を指向し、投資してきた実績がある。2021年設立の「Open Network Lab・ESG1号ファンド」(ファンド規模26億円)ではESG関連の事業を重視し、一定割合をESG関連スタートアップに投資する目標を設定・達成してきた。
新設された「2号ファンド」が掲げるのは、「社会・環境課題の解決を追求しつつ、経済性の追求も妥協しない」という大原則だ。堤氏は、その意味をこう説明する。
「伝統的な投資家であるデジタルガレージグループの役割は、これまで培ってきた伝統的な投資のノウハウ・実績とインパクト志向を組み合わせ、伝統的な投資家でもインパクト投資で、これまでと同じ経済リターンを得る事例を示すこと、そしてこのファンドを通じて、伝統的な投資家とインパクト投資家のギャップや、伝統的なスタートアップとインパクトスタートアップのギャップを埋める存在になることです。
したがってこのファンドは、事業内容に関わらずすべての企業に対してインパクト経営を推奨し、50%以上はインパクト志向のスタートアップに投資、30%以上を気候変動関連の企業に割り当てることを投資方針にしています。100点満点のインパクトではないかもしれませんが、業界全体にインパクトをもたらすことを意識して設計しています」
2号ファンドは自社のアクセラレータープログラム「Onlab」を卒業したスタートアップだけでなく、インパクト志向の企業を中心に国内外のスタートアップにも広く投資を予定する。シード・アーリーの「インパクトスタートアップ」のインパクト最大化を目指すとともに、インパクトの意識醸成や、次世代を担うインパクト起業家の育成にも取り組むのが特徴だ。またこのファンドを通じて、インパクト投資の経験がない伝統的なGPやLPにも参入の機会を開き、インパクト志向の投資家層を広げていくことも意図しているという。
「インパクト投資は儲からない」と言われることも多い。堤氏は「まだまだ伝統的な投資とインパクト投資のギャップがあるのが現状で、マイノリティーです。特に日本においては、そもそもの理解が進んでいなかったり、経済的リターンを出せないという印象も根強いため、インパクト金融の資金の流入が限定的なことが課題と言えると思います」と語る。一方で、力強くこう続ける。
「でも私は、世界に匹敵するグローバル基準のインパクト投資の事例、これを作ります。そしてそれは、豊富なスタートアップ投資を行ってきたデジタルガレージグループだからこそできると確信しています。一人でも多くの仲間と、大きなインパクトを残したい。そう願っています」
株式会社DGインキュベーション
デジタルガレージグループのノウハウやネットワークを活用し、スタートアップにビジネスモデルの改善、事業戦略の策定、人材採用、資金調達などを支援。ファンド運営を通じ、世界にチャレンジするスタートアップに投資を行っている。
https://dgincubation.com/