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人手不足でも患者満足度を最優先に。CurePortで始める医療DX

医療現場の働き方改革が叫ばれるなか、DXによる診療事務の効率化はますます急務になっている。医療現場でDXはどのように導入され、効果をあげているのだろうか。医療機関の決済をオンライン化するサービス「CurePort」を導入した医療現場とプロジェクト責任者へのインタビューから、日本の医療DXの現在地と未来を探る。


<Speaker>
株式会社デジタルガレージ デジタルヘルス事業部 部長
小原 由記子

総合人材サービス企業、情報通信企業で多岐にわたる新規事業に従事したのち、医療ヘルスケアスタートアップに参画し取締役を務める。その後2019年にデジタルガレージに入社。DG Lab BioHealthチームシニアマネージャーを経て2022年より現職。

(所属・肩書は公開時点)


医療現場はDXでどう変わるのか?導入した医療機関の事例から

CurePortは、患者の「会計待ち」をなくし、診察を受けた後すぐに帰宅できるようにするサービスだ。専用アプリをダウンロードし、受診機関、診察券番号、クレジットカード番号、氏名等の個人情報を事前登録しておくと、以降はチェックインだけで診察後は自動的にクレジットカード決済が完了する。医療機関からすると、待合室の混雑緩和と患者の負荷の軽減が同時に実現できることはCurePortの大きなメリットである。また、インターネットに接続できるデバイスが一台あれば始められる導入ハードルの低さも他にはない特徴だ。

2024年末に本格提供がスタートして以来、CurePortはクリニックから病院まで広く導入が進んでおり、キャッシュレス決済をこれから導入したい医療機関からも、すでに始めている医療機関からも問い合わせがあるという。後者の場合は特に、「患者さまを待たせない」「医療従事者の業務をさらに効率化する」といった付加価値に大きな期待を持って、CurePortの導入を決めている。

医療現場はこうしたDXサービスの導入で、どう変わるのか。実際にCurePortを導入した2つの医療機関に、その効果について聞いた。

おなかクリニック|会計時間短縮・決済手段多様化で患者の満足度が向上

地域に根差した内科・消化器科を中心としたクリニック、医療法人社団おなか会 おなかクリニック(東京都八王子市)は、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行時、感染リスク軽減のためキャッシュレス決済を導入した。運用を続ける中で、コスト最適化とオペレーションの効率化はもちろん、「待ち時間短縮」を通じて患者様により良い医療体験を提供したいという思いから、2025年にCurePortの導入を決定したという。背景にあったのは、導入コストの低さとシステムの簡便さ、そして「待ち時間短縮」という観点から患者へのサービス向上を実現させたいという思いだった。

CurePort導入後、キャッシュレス決済の利用率は全体の約56%程度まで上昇。特に手術や検査により高額になった診療費用の支払いにキャッシュレス決済を利用する患者が増えたとのことだ。会計時間の短縮や決済手段の増加により、「サービスの幅が広がり、その結果として患者さまの満足度が向上し、地域におけるクリニックの価値も一層向上したと実感しています」と村井隆三院長は話す。

詳しくはこちら:「時間短縮」と「決済手段の多様化」がもたらす患者満足度の向上 医療法人社団おなか会 おなかクリニック(CurePort)

ハートピア歯科・矯正歯科 北本診療所|スタッフの負担軽減でサービスの質が向上

地域のかかりつけ歯科として、一般診療から高度な矯正治療まで幅広いサービスを提供するハートピア歯科・矯正歯科 北本診療所(埼玉県北本市)も、2025年にCurePortを導入。導入の背景には人手不足に起因するスタッフの心理的・身体的負担の増大があり、業務効率化を実現してサービスの質の低下を防ぐ狙いがあった。

導入後は、受付負担の軽減により診療効率全体の向上につながったとのこと。ピーク時の受付負担が軽減されたことで、業務平準化につながり、スタッフの精神的な負担が減ったという。洲﨑雄介理事長は「忙しい時間帯に発生する不要な待ち時間や精神的な負担が減ることで、スタッフの笑顔が増え、業務効率と患者サービスの質がともに向上しています。結果としてスタッフと患者さん双方にとってWin-Winの関係を築くことができています」と、現場によい循環が生まれていることを明かした。

詳しくはこちら:会計の効率化で「人手不足解消」と「スタッフの負荷軽減」を実現 ハートピア歯科・矯正歯科 北本診療所(CurePort)

現場で感じた、医療DXが大きく進む「兆し」

医療機関のデジタル化を後押しするCurePort。デジタルガレージデジタルヘルス事業開発部部長の小原 由記子氏は、開発への背景や思いをこう語る。「今、日本はどの業界でも人材不足ですが、特に医療業界は高齢化にともなう医療・介護需要の増大により、今後ますます人手が足りなくなることは明らかです。そのような状況で私たちのようなIT企業だからこそ支援できるのは、診療以外の業務の効率化だと考えています。医療業界は他の産業と比べて、効率化の余地がまだ多くあります」

人口減少・高齢化率増加などの社会背景から、日本政府は数年前から「電子カルテの標準化」「オンライン資格確認等システムの運用」「新診療報酬『医療DX推進体制整備加算』追加」など、医療DXを強く推進してきた。厚生労働省の医療施設調査によると、電子カルテシステムの導入率は、2020年から3年間で一般病院は8.4ポイント、一般診療所で5.1ポイント上昇した。医療DXは着実に進みつつある一方、業界全体が大きく変わるほどの変化はまだ生まれておらず、デジタル化が遅れている状況は変わらない。

それでも小原氏は、新たな兆しを感じている。「新型コロナウイルスへの対応を機に、これまでの受診フローを改善する新しいシステムを導入した医療機関さまが増えました。その結果、従来型の受診体験に疑問を持ち始めた患者さまが声をあげるようになったことで、その他の医療機関さまも改善の必要性に気付き始めているようです。

特にキャッシュレス決済については、医療以外の業界ではスピーディーに普及しており、現金を持ち歩かないという人も、幅広い世代で増えています。医療機関に行くときだけ現金を用意しなければならないことを不便だと感じる人が増え、その風潮もまた業界全体に変化をもたらす外圧の一つになると思います」

現場の声から見えてきた医療DX成功の秘訣とは

サービスリリースから約1年が経過するなかで、CurePortをフル活用し、業務効率化と患者満足度の向上を高いレベルで実現できている現場には共通点があると小原氏は言う。

「おなかクリニックさま、ハートピア歯科・矯正歯科 北本診療所さまも含め、患者さまの満足度向上に高い関心があるところほど、CurePortをうまく活用いただいている印象です。背景には医療DXの難しさがあります。診療にまつわるプロセスに関して、一部であってもデジタル化は簡単ではありません。特に決済のプロセスを変えることは、医療機関にとって骨の折れる仕事です。保険診療を提供する医療機関は、患者を選ぶことができません。そのため、あらゆる人が区別なく利用できるようにするために、現金を排除して特定の決済手段に100%切り替えることはできません。

従来のフローがすでに確立されているなかで新しいシステムを導入する場合『どのような患者さまに』『どのように使ってもらうのか』といったビジョンが明確でなければ、せっかく導入しても活用しきれずに終わってしまいます。特にCurePort導入の際に重要なのが、患者さまの満足度の向上にどれだけ本気で向き合っているかです。『業務を効率化して患者さまと向き合う時間を増やすこと』『患者さまを待たせないこと』を実現すれば、患者さまの満足度が上がることはわかっているなか、覚悟をもって取り組んでいる医療機関さまほど、CurePortの活用で大きな成果をあげていただいていると思います」

誰もが自分の医療情報にアクセスできる世界をつくる

CurePortは今後もブラッシュアップを繰り返してさらに便利になる予定だ。直近のアップデートについて小原氏に聞いた。「患者さまがCurePortアプリを通じて会計に関する情報によりアクセスしやすくする機能の開発を進めています。その先は、患者さまの受診フローがより便利になる機能を順次提供していきたいと考えています」

サービス改善と合わせて、医療機関へのアプローチも進めるとのことだ。

「直近ではいくつかの病院での導入も控えていますが、資本業務提携先であるりそなグループとの共同事業である強みを活かし、CurePort を導入いただく医療機関の種別やエリアを拡大させたいと考えています。具体例としては、同一地域にある複数の医療機関さまにCurePortを導入いただくことで、その地域にお住まいの患者さまがどこに行ってもCurePortが使える状況を作っていきたいです。。そうなれば、患者さまの医療に対する印象が変わり、CurePortはますます身近なサービスになるはずです。」

最後に、医療・ヘルスケア分野でどのような未来を実現していきたいか聞いた。

「『体調が悪くなったらすぐに病院に行く』という1択ではなく、各個人がどのような医療・ヘルスケアサービスを組み合わせて活用すべきかについて、自ら考えられる環境づくりを実現したいです。状況によっては必ずしも医療機関に行くことが最適ではありません。また、予防という観点で何ができるかを知ることも非常に重要です。幅広い選択肢のなかから自分にとって適切な商品・サービスを、信頼できる情報を活用して、自ら選択できる世界が理想的だと思います。

その実現のためには、情報の非対称性解消が重要です。医療情報は、医療従事者と患者の知識差のみならず、各個人の手元に自身のデータがないことが大きな課題です。自分自身の情報であるにもかかわらず、手軽にアクセスできないばかりか、時には短い時間と限られた知識・情報で今後の治療等の判断を行わなければなりません。最近、金融分野では自分の資産をまとめて管理するサービスが提供されていますが、医療の場合は情報の取り扱いが特に厳しく、同種のサービスはほとんど出てきていません。国、医療機関、健康保険組合など特定の場所にしかない情報に、いかに個人が自分の意思でアクセスできるようにするかが重要だと考えています」

医療情報の非対称性解消に向けて、デジタルガレージだからこそできることがある。

「CurePortは患者さまのIDを登録いただいて決済する仕組みのため、いわば患者さまの医療情報をお預かりしている状況です。さらに、電子カルテや診療報酬明細書の作成を行うシステムとの連携機能もあります。現時点では、あくまでも決済のために必要な情報しか取得していませんが、患者さま側の同意さえあればその他の医療・ヘルスケア情報にアクセスして、それらを統合して活用し、パーソナライズされた情報を患者さまに提供することも可能です。医療機関の内外で生まれたデータを、同意のもとに本人にお返しできれば、私たちの目指す世界に一歩近づけるのではと考えています。もちろん、そのためには安心・安全なサービスとして運用するための強固なセキュリティ対策も同時に行っていく必要があります。今後も、デジタルガレージグループ全体のアセットや連携するスタートアップのアセットを最大限活用しながら、CurePortをさらに進化させ、よりよい世界の実現を目指します」

CurePort

医療機関で利用できるオンライン決済サービス。医療機関は簡単にキャッシュレス決済を導入でき、患者は専用アプリに診察券番号と決済情報を登録することで、診療後の支払いを迅速かつスムーズに行うことが可能となる。

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