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New Context

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web3と暗号資産、世界の最新事情と日本の法規制のゆくえは

多種多様なデジタル技術を駆使し、どのように社会をデザインするべきかーー。そんな問いを国内外の有識者との議論を通じて考えていくカンファレンス「NEW CONTEXT CONFERENCE(NCC)TOKYO 2025 Summer」が6月、東京都渋谷区のデジタルガレージ本社で開催された。第一線で活躍する起業家や技術者、哲学者らがテクノロジーと未来のあり方を熱く語り合ったイベントの模様を、連載で振り返る。

日本の暗号資産政策は、再び転機を迎えている。かつて世界に先駆けて仮想通貨交換業の制度化を進めた日本は、度重なる流出事件を契機に、厳格な規制へと舵を切った。しかし、web3・ブロックチェーン技術の発展とともに、その姿勢にも変化が生まれている。

NCC TOKYO 2025のセッション「Blockchainが築くFintechの未来」では、ブロックチェーンがもたらす新たな金融構造や世界へのインパクトについて、その最新事情や課題が共有された。法務大臣政務官・衆議院議員の神田潤一氏、Radius共同創業者兼CEOのRobert Bench氏、そして金融庁総合政策局フィンテック参事官室イノベーション推進室長兼チーフ・フィンテック・オフィサーの牛田遼介氏がそれぞれ講演。パネルディスカッションでは伊藤穰一氏がモデレーターを務め、フィンテックの未来について多角的に議論された。


<Speaker>
法務大臣政務官 衆議院議員 神田 潤一
Radius 共同創業者 兼 CEO Robert Bench
金融庁 総合政策局フィンテック参事官室 イノベーション推進室長兼チーフ・フィンテック・オフィサー 牛田 遼介
ファシリテーター:株式会社デジタルガレージ共同創業者 取締役 伊藤 穰一

(所属・肩書はイベント時点)


日本の暗号資産政策は、厳格化から再び見直しの方向へ

衆議院議員で法務大臣政務官の神田潤一氏は「日本のweb3・Blockchain政策のこれまでとこれから」と題し、フィンテックをめぐる自身の経歴を振り返りながら、暗号資産に関する政府内の議論の動きを紹介した。

神田氏の経歴からは、日本の暗号資産政策の歩みが読み取れる。神田氏は日本銀行在籍時に金融庁へ出向し、フィンテックサミット(現在のFIN/SUM)を企画し、第1回を創設した。神田氏は、この金融庁出向時の2016年に金融庁が主導した資金決済法等の改正に携わった。同改正は他国に先駆けて仮想通貨の交換業者に登録制を導入するなど、日本での暗号資産ビジネス普及の基盤となったという。神田氏はその後マネーフォワードに転職し、子会社で暗号資産交換業の「マネーフォワードフィナンシャル」社長に就任。その後、2018年のコインチェック事件やZaif事件で立て続けに暗号資産の流出が発生し、金融庁は消費者保護の観点から、暗号資産政策を厳格化する方針へと転換した。2019年の資金決済法改正で暗号資産管理が厳格化された結果、日本の暗号資産取引は大幅に減少。マネーフォワードも暗号資産交換業への参入断念を余儀なくされた。

その後国会議員となった神田氏は、自民党のデジタル社会推進本部に参加し、NFTやweb3のプロジェクトチームで議論を主導した。同チームは2022年の「NFTホワイトペーパー」以来毎年提言をまとめてきた。公表以降、web3や暗号資産の存在感は増し、ブロックチェーン技術のNFTやDAOへの活用も進んできた。一方で、より加速させるためには事業インパクトを創出するようなweb3ビジネスを広げていき、さらに経済成長に資するビジネスを後押ししていく必要があった。2023年以降は概念を広げweb3ホワイトペーパーという形に変わり、2025年5月に提出した最新の「web3ホワイトペーパー」では、暗号資産を金融商品取引法に位置づける新たな税制を提案しながら、暗号資産の発行体やサービス提供者への規制やインサイダー取引規制などの顧客保護の視点も盛り込んだ。また、国会議員の有志が集まったブロックチェーン推進議員連盟も2025年5月に提言書を出している。web3を国家戦略として位置付けた上で、日本の技術仕様や規制体系を国際標準化することや、暗号資産の制度改正の必要性について触れ、研究開発による新たな産業創出を目指していくべきことなどを提言している。

金融庁もこれらの議論を受け、2025年に暗号資産に関する制度のあり方についてディスカッションペーパーを発表。暗号資産は個人の資産形成の重要なツールと認められるべきであると分析した上で、情報開示義務化やインサイダー取引規制の検討を進めており、来年の通常国会での法制化を目指しているという。神田氏は「政府や金融庁は基本的には新技術に前向きで他国に遅れまいとしてきた一方で、投資家保護やセキュリティ確保が脅かされる場合にはしっかり規制をするというスタンスで来た。税制の見直しの可能性が高まっていて、資産形成手段としての安定性や有用性を確保しつつ、web3やブロックチェーン技術も含めて日本の経済成長や課題解決に資するビジネスを広げていきたい、そういう方向へ議論が進んでいくと思う」と締め括った。

時間を奪う「広告モデル」から「ステーブルコイン」の世界へ

「スマートフォンを取り出して、今日のスクリーンタイムを確認してみてください」。そんな印象的な呼びかけからスピーチを始めたRobert Bench氏は、インターネットのインセンティブ構造の問題に焦点を当てた。 Bench氏によると、かつて人間が機械を制御していた時代は終わり、今や機械が人間の時間を支配するようになった。この背景には、1990年代半ばのインターネット商用化がある。当時は、インターネット上で商品やサービスの支払いを可能にする「HTTPコード402」が設計されたものの、技術的な未熟さから普及せず、有料モデルは失敗。結果として、インターネットで生き残ったのは広告を主な収益源とするモデルだった。

そしてGoogleやMetaなどの広告プラットフォーマーが広告を売るためにはユーザーのデータを必要とし、さらにそのデータを得るためにはユーザーの時間が不可欠である。その結果として、人が機械に奉仕するようなインターネット環境が生まれていると指摘。そして2017年にGoogleの研究者たちが発表した論文「Attention is All You Need」に端を発する現代のAIシステムも、この「アテンション・エコノミー」を加速させていると語った。 Bench氏はデータセンターの電力、NVIDIAのチップ、そしてOpenAIのような基盤モデルが、この新しい経済を支えていると説明する。

 Bench氏は、広告モデルが続くことで私たちの時間はますます機械に奪われると警鐘を鳴らし、その解決策になりうる新たなシステムとして「ステーブルコイン」を挙げた。ステーブルコインはオープンでパブリックなネットワーク上で機能するため、価値システムが自律的に移動できるようになる。Bench氏は、仲介者を介さずにブロックチェーン上で直接取引できる「ステーブルコイン」こそ広告モデルから脱却できる方法だと主張。Radius社はこれまで、インターネットのリアルタイムな取引スピードに対応できるようなステーブルコイン取引システムを開発してきたという。Bench氏は「私たちの時間を取り戻すためには、インターネットのインセンティブシステムとしての広告をステーブルコインに置き換えることで、私たちの時間を取り戻すことができる」と訴え、スピーチを締め括った。

「イノベーション」と「リスク」のバランスを取る規制を

2019年からブロックチェーン分野に関わっている金融庁総合政策局フィンテック参事官室イノベーション推進室長兼チーフ・フィンテック・オフィサーの牛田遼介氏が登壇。日本ではすでに暗号資産口座が1,200万口座を超え、日本人の10人に1人以上が口座を保有している状況から「マスアダプトされた」と表現。ステーブルコインも市場規模は2300億ドルに達し、もはやニッチなセクターではないと語った。一方で今後は金融機関を含め、多くのところがステーブルコインに関わっていくことになるため、中央銀行などは金融安定性への影響を警戒しており、リスク対応とイノベーションとのバランスが重要だと述べた。

暗号資産の負の側面としては、倫理に反する利用や金融犯罪がある。金融庁は無登録業者への公表や警告、アプリ削除要請などを行ってきたが、より健全な投資手段として位置づけるために、規制整備をすすめることによってこれらの問題を減らすことが極めて重要であるとした。グローバルな暗号資産取引では国際的な調和が重要であり、「同じ活動、同じリスクであれば、同じ規制を適用する」という技術中立的なアプローチが多く採用されている。しかし牛田氏は、一律の規制方法を適用するのは難しく、利用者保護や金融安定の確保、金融犯罪撲滅など結果に合わせた適切な手段が必要であるとの見解を示した。一方でグローバルでの暗号資産規制は遅れており、現在でも約7割の国が金融活動作業部会(FATF)の国際基準を遵守できていない点を指摘し「金融庁として暗号資産の規制導入を率先し、先頭に立つ国の一つとしてやっていきたい」と述べた。

日本の制度では2016年の仮想通貨交換業創設以来、ICO規制やステーブルコイン規制を導入し、暗号資産の流出など様々な事件を経て、イノベーションと保護のバランスを取りながら規制を整備してきた。直近の法改正案として議論されているものとしては、特定のステーブルコインの裏付け資産運用の柔軟化や、「暗号資産取引に係る仲介業」の新設が進められ、ゲーム会社などがステーブルコインを扱いやすくなる環境整備が図られている。金融庁では「暗号資産に関する制度のあり方等の検証」(ディスカッション・ペーパー)を示しており、制度改正への議論を引き続き進めていることを明かした。

「最大のリスクは、技術を使わないことで競争力を失うこと」

パネルディスカッションではまず、ファシリテーターの伊藤穰一氏が、新技術の登場による社会の変化について振り返った。かつての中央集権的な都市国家では粘土版に帳簿が書き込まれ、聖職者が宗教によって統治していたが、紙とインクの時代になると複式簿記が生まれるとマーケット経済と民主主義が育ち、会計士や弁護士が記録する世界になった。そして今後「デジタル」の時代において記録媒体は「ブロックチェーンとスマートコントラクト」になり、その上にAIエージェントとコンピュータ言語があり、それを扱うのはLLMになると予測。「今よりもさらに分散した世界ができるのではないか」という社会像を提示した。

パネリストからは、日本における官民間の人材流動性の課題が指摘された。神田氏は自身の日銀から民間への転身について、「変化が激しい時代に同じところに留まるのはリスク」と語り、多様な経験の重要性を強調した。金融庁のイノベーション推進室には、マネーフォワードなどのスタートアップや日銀からの出向者も参加しており、多様な視点での政策立案が進められている。牛田氏は「100人だけで政策を考えても、社会全体にメイクセンスするポリシーは作れない」と、外部人材の重要性を指摘した。

伊藤氏は、日本のweb3政策が「一周遅れのフロントランナー」と外部から評価されていることに言及し、コインチェック事件後の規制で一旦遅れたものの、その後ステーブルコイン法やDAO法を整備し、アメリカのFTX事件時などにはむしろ先行したと述べた。ただトランプ前大統領の暗号資産推進政策が急速に進展する中、日本は再び後れを取るのではないかと質問を投げかけた。神田氏は「トランプ氏の積極的な姿勢によって、日本の政治の中枢にいる人も『ちゃんとやらないといけない』という意識になってきた。これからは政策が変わり、それが税制の議論を進めるインセンティブになるのではないか」と政府の動きに言及した。

Bench氏はアメリカで「ステーブルコインは、クレジットカード銀行や銀行ネットワークの利益率を急速に侵食している」とその成長を説明し、「日本で円建てのステーブルコインがまだ登場しないのはなぜなのか」* と問いかけた。牛田氏は「特にトラディショナルなプレイヤーがやろうとすると、リスク管理部門やコンプライアンス部門との調整が難しい。ユースケースがなかなか思いつかないという声もある」と課題を挙げた上で、「金融庁は引き続き前向きなので、早期の登場を願っている」と実現に期待を込めた。

また、Bench氏は、当初暗号資産はウォール街に支配された金融システムから逃れる手段として支持されたと述べ、富裕層やシリコンバレーもかつては懐疑的であったが、今はビットコインの隆盛や政治的支援により状況が変化したと指摘。「シリコンバレーの技術インフラと世界の基軸通貨を動かす金融インフラが今、ようやく出会い始めている。ステーブルコインこそが、この2つが交差し始めている場所だと思います」とその意義を強調した。

牛田氏は「新しいテクノロジーの導入はリスクもあるけれど、最大のリスクの一つはそれを使わないことで中長期的に競争力を失うこと」だと述べ、競争を促進し、新規参入者や海外プレイヤーも積極的に歓迎する方針を示した。神田氏は「基本的に政府や金融はイノベーションを推進するのに積極的・前向きだったが、スピードのコントロールには気をつけてきたと思う。イノベーションが早く進みすぎると混乱が起きたりあるいはこれまで積み上げてきたシステムが崩れて次の秩序ができるまでに大きな損失が発生したりすることがありうるので、それをコントロールすることが日本の民間企業や政府のやり方に合っているのではないか」と、日本ならではのフィンテックの進展があるのではないかとの見方を示した。

<Session2>Blockchainが築くFintechの未来|NCC TOKYO 2025 Summer

* 2025年10月27日JPYC株式会社から日本円ステーブルコイン「JPYC」が発行

<NEW CONTEXT CONFERENCE(NCC)>
デジタルガレージの共同創業者の林郁と伊藤穰一がホストとなり、最先端のインターネット技術やその周辺で生まれるビジネスに関心のある方々を対象に、2005年から開催しているカンファレンス。NCC TOKYO 2025 Summerは27回目の開催となった。
https://ncc.garage.co.jp/2025_tk_summer/

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