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12月施行の「スマホ法」でアプリ外決済はどう変わる?公正取引委員会とアプリ外課金サービス事業者が展望を語る

12月に施行される「スマホソフトウェア競争促進法」(通称:スマホ法 / スマホ新法)が、ゲーム業界やアプリ事業者からの注目を集めている。AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーを介さない「アプリ外決済」がさらに広がる可能性があり、決済手数料の軽減や決済手段の多様化につながると期待されているからだ。

「スマホ法」の施行で、現場ではどのような変化が起きるのだろうか。9月25日に開催された東京ゲームショウ2025のTGSフォーラム「スマホ法〜公正取引委員会と語るアプリ課金決済の未来〜」では、公正取引委員会の担当者とアプリ外課金のサービス開発者が登壇し、その現状と課題について語った。


<Speaker>
公正取引委員会 官房参事官(デジタル担当)
チーフグリーンオフィサー 鈴木 健太

2003年に公正取引委員会事務総局入局した後、様々な部署で事件審査や政策立案を担当。2021年にはデジタル市場企画調査室においてデジタル広告分野の取引に関する実態調査を担当したほか、2023年には企業結合課においてMicrosoftによるActivision Blizzardの買収案件等のデジタル分野の企業結合案件の審査責任者として数多くのM&Aの審査を実施。2025年より、スマホソフトウェア競争促進法の運用担当として12月予定の法施行に向けた準備を進めている。

株式会社デジタルガレージ
アプリビジネス推進本部 アプリペイ事業部部長 丸山 恭平

アプリ開発会社にて約10年間にわたり、アプリ広告事業の立ち上げや自社アプリを含む多様なアプリの企画から運用を牽引。2021年よりデジタルガレージに参画し、決済サービスを活用した「アプリペイ」の企画・立ち上げを主導。現在は事業責任者としてサービスをリードしている。

(所属・肩書は公開時点)


巨大プラットフォーマーを規制し、競争を促進

スマホソフトウェア競争促進法(スマホ法)は2024年6月に成立した新しい法律で、2025年12月18日に施行予定だ。モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの4つのソフトウェアに関する新しいルールを設定するもので、規制の対象となる事業者はこれらのソフトウェアに関して月間の平均利用者数が4000万人以上の事業者(指定事業者)に限定される。現状、該当する事業者はAppleとGoogleの2社となる。

公正取引委員会の鈴木氏は政策の背景について、「この法律はEUの法律をコピーしたなどの批判もありますが、実際は7年ぐらい前から、アプリ開発者からの『手数料が高すぎる』といった声や『新しい商品を販売したい』という声を聞くなかで、立法による解決を7年間かけてじっくり検討してきたものです」と説明する。

この法律によって、何が変わるのか。鈴木氏は、新たなアプリストアが出現したり課金システムが使えるようになったりすることで決済手段の多様化が進むことや、ウェブサイトなど「アプリ外」での課金や商品の提供が拡大されるといった効果を挙げる。他にも、音声入力機能などのOS機能を他の事業者も利用できるようになることや、ソフトウェア切り替え時のデータ移転の円滑化、ユーザーによるブラウザや検索エンジンの選択の促進といった変化が見込まれるという。

「スマホ法」の具体的な規制内容とは?

法律では、具体的にどのような規制が設けられるのだろうか?セミナーで説明があった主な内容を抜粋すると、①他のアプリ事業者に対して不公正な取扱いをすること、②新しいアプリストアの参入を妨げること、③アプリ内の課金で、サードパーティー事業者の課金システムの利用を制限すること、④ウェブ課金を妨げることだ。鈴木氏の説明とともに、それぞれ詳しく見ていきたい。

①他のアプリ事業者に対して不公正な取扱いをすること

アプリの審査や規約の設定などで、他のアプリ事業者に対して不公正な取扱いをすることが規制される。具体的には、他のアプリストアを使い始めた事業者を不当にバンする、審査期間を長期化させる、ランキングで不利な位置づけにする、不当な返金要求をする、といった行為が違反となりうる。(6条:個別アプリ事業者に対する不公正な取扱いの禁止)

②新しいアプリストアの参入を妨げること

 新しいアプリストアに参入するのを妨げる行為が規制される。例えば、新規のアプリストアを提供する事業者に対して高額な手数料を設定するような行為は、競争を妨げていると見なされる可能性がある。(7条1号:基本動作ソフトウェアに係る指定事業者の禁止行為)

③サードパーティー事業者の課金システムの利用を制限すること

アプリ内での課金において、サードパーティー事業者の課金システムを利用することを妨げる行為が規制される。他社決済を許可したとしても、高額な手数料がかかったり、申請に時間がかかるといった場合も「妨げる」行為に該当する可能性がある。(8条1号:アプリストアに係る指定事業者の禁止行為)

④ウェブ課金を妨げること

ウェブ課金を妨げる行為も規制される。例えば、ウェブ課金に関する価格やセールの情報表示を制限したり、アプリ内にウェブに誘導するリンクを設置させないようにしたり、手数料を高く設定すること、警告のポップアップを小窓の形でたくさん出すことなどが含まれる。(8条2号:アプリストアに係る指定事業者の禁止行為)

鈴木氏は、仮に法律が守られない場合、行政処分として排除措置命令や、課徴金納付命令(関連する売上の20%)が科される規定となっていることを説明し、実際の運用面での考えを次のように述べた。

「我々としては選択肢の増加、競争の促進とともに、ユーザーの皆様に引き続き安心安全に使っていただくことが大事だと思っています。その点でAppleさんやGoogleさんとは、今後起こりうる問題についてかなり緊密に議論をしており、『競争の促進』と『安全』とを、きちんと運用の中で両立していきたいと考えています」

アプリ外課金プラットフォーム事業者が語る「スマホ法」への期待と課題

アプリ外課金プラットフォーム「アプリペイ」を開発・運営するデジタルガレージの丸山氏は、アプリ外決済の提供者として、スマホ法への期待と懸念を語った。

丸山氏によると、日本のモバイルゲーム市場はダウンロード数と収益がほぼ横ばいで、成長が鈍化している。収益改善が最大の課題となる中で、「収益改善のためには多様な決済を実現することが重要であり、これによって決済手数料の削減や新たなユーザー体験が可能になると考えています」と期待を込める。「アプリペイ」は2025年11月11日時点ですでに50以上のゲームタイトルを掲載し、契約数は80を超えている。現状ではアプリ外での課金の移行率は平均して約30%ほどで、中には60%を超えるクライアントも出てきているという。

一方で丸山氏が注目したのは、スマホ法の施行後、アプリ内での他社決済の利用やリンクアウト(リンクから外部サイトへ遷移すること)が可能になるのか、という点だ。鈴木氏によると法律上は妨げてはならないことになっているものの、セキュリティやプライバシーの保護などの「正当化事由」に当てはまる場合は制限が認められるという。

丸山氏は「類似の法律が施行されているEUの状況を加味しても、12月の施行後に全面的に解放されるということはなかなか難しい状況にあるのではないかと考えています。そのため直近で我々がやるべきことは、現状の規約に対応しながらも収益改善を目指していくこと」だと語り、すぐにできる「アプリ外決済」の改善策として、ユーザーのニーズに合わせた商品設計や、初回購入を促す施策、アプリ外決済の認知を広げるマーケティングが重要だとする考えを示した。

またスマホ法成立後の展開として、「これまではアプリの中で購入する世界だったが、これからはアプリ内からシームレスに外側に出して内側に戻す、といったフローができるのではないか。その際に必要な、アプリ内のゲームIDを引き継いですぐに決済ができるような仕組みや、アプリ内で決済のみを弊社が担えるような仕組みを開発しているところです」と明らかにした。

会場ではゲーム事業者から、「アプリ外課金を安心して使うためには、指定事業者側が規約を変更することが必要だが、その段取りはあるのか」との質問も出た。鈴木氏は「我々として目指しているのは施行日の12月18日時点で法律がしっかり守られている状況を作ることで、指定事業者に進めていただいているところ。規約変更がまとまれば、その少し前に公表していただくのが望ましいが、タイミングまでは現時点では申し上げにくい。皆さまが安心して可能性を追求できる状況にしたい」と語った。

公正取引委員会は10月からスマホ法についての相談窓口を設置した。鈴木氏は「さまざまな方との意見交換や情報交換を積極的にさせていただくことで、バランスを持った適切な運用をしていきたい。お困りごとやご意見があればぜひお寄せいただきたい」と呼びかけた。

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アプリペイ
「アプリペイ」は、「決済システム」「WEBページ(CMS生成)」「カスタマーサポート」「マーケティング」の機能を提供する、多数のアプリのデジタルコンテンツをアプリ外で購入可能な国内No.1アプリ外課金プラットフォームです。

アプリ事業者は、本サービスによって、Webページ制作やシステム開発の手間とコストをかけることなく、アプリ外課金決済の仕組みを簡単に構築でき、決済手数料の負担を大幅に軽減することができます。

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2025年9月にはグローバル対応を開始し、Merchant of Record(MoR)機能の提供を基本に、多言語・多文化に対応したサイト構築やユーザーサポート、マーケティング・データ分析などの海外展開に関する煩雑な業務をサポートしています。

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