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【HooK #1】札幌中心部から、挑戦を支える──スタートアップ拠点が本格稼働開始

北海道には、新しい事業を育てるための環境がある。ドローンを飛ばせる空、自動運転車を走らせる広い道路、ロボットが作業をする広大な農地、そして年間を通して国内外から訪れる多くの人。しかし起業家にとって北海道は、広いゆえの難しさもあった。投資家、顧客、行政が道内に点在し、密な連携が難しかったのだ。

2026年7月15日、札幌市中央区の複合施設「アーバンネット札幌リンクタワー」に、スタートアップ支援施設「HooK(フック)」が誕生。コワーキングスペース、スモールオフィス、イベントラウンジを兼ね備えた拠点であり、スタートアップはもちろん、投資家、行政の窓口までが集まる場所となっている。

そんなHooKは、開業から約1カ月後の8月20日、4階のイベントラウンジでグランドオープンイベント「HooK Opening Meetup」を開催。「つながることで、挑戦は加速する。」をテーマに、トークセッションや交流会がおこなわれた。前編では、当日の様子をレポートし、北海道で挑戦する起業家と、投資家が語った本音を紹介する。


<Speakers>
NTT都市開発株式会社 北海道支店長 田畑 善基
newmo株式会社 取締役COO 野地 春菜
matsuri technologies株式会社 代表取締役 吉田 圭汰
株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ プリンシパル 鳥居 優人
株式会社KOTA Founder / CEO 小林 功
株式会社デジタルガレージ 執行役員 兼 DGインキュベーション取締役 / HooK シニアアドバイザー 佐々木 智也
HooK 館長 田﨑 勇二

HooK インキュベーションアソシエイト 村上 文哉

(所属・肩書は公開時点)


「ここに来れば、可能性が無限に広がる」──札幌中心部にスタートアップ拠点「HooK」グランドオープン

HooK開業から約1カ月後に開催されたグランドオープンイベント「HooK Opening Meetup」。NTT都市開発 北海道支店長で、2021年からHooKの開設に携わってきた田畑善基氏の挨拶で幕を開けた。

「私は札幌育ちで、札幌が世界一の町になるために何か貢献をしたいと思い、5年前にHooK開発のプロジェクトをスタートさせました。

最先端の技術やビジネスアイデアをもつ方々が集まり、化学反応を起こし、まだ見たことのない価値を生み出して世界に飛び立っていく。そんな拠点をつくったつもりです。そしていつの日か、世界で活躍した方々がまた札幌に戻ってきて、今度は後輩を育てる、という循環が生まれればと思っています」

続いて、司会のHooK インキュベーションアソシエイトの村上文哉による、施設概要の紹介があった。HooKは、アーバンネット札幌リンクタワーの2階から7階までの全6フロアで構成される。2階と3階がコワーキングスペース、4階が最大120名を収容するイベントラウンジ、5階から7階が24時間利用可能なスモールオフィスだ。

札幌中心部という立地でありながら、個人プランと法人プランを手ごろな価格で用意している点を強みに挙げた。加えて、運営体制が整っているところも大きな特徴だと説明する。

「HooKには、デジタルガレージグループのシードアクセラレータープログラム『Open Network Lab』、『Open Network Lab HOKKAIDO』を支えてきたメンバーが在籍し、会員同士の横のつながりやサポーター企業とのマッチングを促すと同時に、事業成長を支援します」

「HooK(フック)」という名前は、英語の「hook」=「引っかける」から来ている。HooK シニアアドバイザーの佐々木智也は、トークセッションの冒頭で施設名に込めた思いを語った。

「スタートアップの方々が、『HooKに来れば誰かにつないでもらえる』『フック(hook)をかけてもらえる』『可能性が広がる』と思えるような場所にしたいと、この名前をつけました」

Talk Session 1「北海道を実装フィールドに──スタートアップが挑む次の成長戦略」

続いて、Talk Session 1「北海道を実装フィールドに──スタートアップが挑む次の成長戦略」がスタート。北海道で事業を展開する2社が登壇した。

1社目は、タクシーやライドシェア事業などを運営するnewmo株式会社だ。2024年1月にライドシェアの会社として創業した同社は、規制や社会情勢を見極め、2025年2月に自らタクシー会社になるという大きな決断を下した。

同業種の企業を連続して買収・統合して事業規模を拡大させる「ロールアップ」を軸に急成長を遂げ、大阪でわずか49台からスタートしたタクシー事業は、設立以降に5社のタクシー事業者をグループへ追加。大阪・神奈川・東京・沖縄などでタクシー車両約1,400台、従業員数2,400人を超える体制で地域の移動を支えている(2026年8月時点)。

さらに2026年9月には「newmo北海道株式会社」を立ち上げ、北海道でもタクシー事業をスタートさせた。Co-Founder兼COOの野地春菜氏は、北海道進出が順調に進んだ背景には、事業承継の課題があると感じている。

「前提として、北海道に限らず全国のタクシー事業者は人手不足で困っています。コロナ禍をきっかけに離れてしまったドライバーが戻らず、コロナ前と比べて、全体で2割ほどドライバーの数が減っているのです。さらに北海道の場合は、創業から50〜60年を迎える老舗タクシー企業が多く、事業承継の課題も深刻でした。

どのタクシー事業者も、これからは自動運転の時代が来ると感じています。これから先10年、20年と従業員の雇用を守り続けるために、どうやって必要な投資をするのかと悩んでいる経営者は多いです。そのような状況で我々と出会い、事業承継の選択肢の一つとして、私たちと一緒に事業を続ける道を選ぶ事業者さまは多いです」

newmoは、自動運転システムを社内で開発している企業でもある。野地氏は、技術の進化が想定を上回るスピードで進んでいると語った。

「ライドシェアは賛否あるテーマでしたが、自動運転技術の開発と普及は国策の一つとして強力に推進されています。生成AIの影響もあり技術開発は想像を超えるスピードで進められており、手応えを感じているところです」

2社目は、民泊や小規模宿泊施設の遠隔運営ソフトウェアを展開する、matsuri technologies株式会社だ。同社は2016年、デジタルガレージが手がける日本初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」に参加し、デジタルガレージを最初の株主として創業した。代表取締役の吉田圭汰氏は、北海道のビジネスチャンスは8年前と比べて大きくなっていると語る。

「以前の北海道は、雪まつりの時期を外すと海外からの旅行者は少なかったです。しかし最近は閑散期の平日でもインバウンドが多く、季節に左右されない場所になってきています。人口が増えない日本において、外国の方々とどのように共生するのかは、国全体から見ても非常に重要な問題です。その解決に向け、挑戦できる環境が北海道にはあります」

さらに吉田氏は、共生に向けた具体的な取り組みにも触れた。同社は、宿泊施設の騒音を検知し、どの程度の音量になれば担当者が駆けつけるかを判断する仕組みの開発を進めている。地域の新しい共生のあり方について、最先端テクノロジーも取り入れながら模索している。

2人はトークセッションの最後に、イベント参加者に向けたメッセージを語った。

野地氏「私は北海道全体に、大きなポテンシャルを感じています。この土地で交通をもっとよくしていきたいと思っていますので、共感してくださる方、交通やコミュニティ、技術の話をしたい方はぜひお声がけください」

吉田氏「事業を進めるにあたって、多少のハードルは関係ありません。今はテクノロジーの進化により、英語が話せなくてもAIやスマートグラスを活用して、ニューヨークの物件を遠隔管理して利益を出せる時代です。足りない能力はある程度AIがカバーしてくれます。大切なのは『どこでやるか』ではなく『大きな野心を持つこと』。起業家の方々は、ぜひ大きな野心をもって世界を舞台に挑戦してほしいです」

Talk Session 2「VCが見る未来──投資家が期待するスタートアップとは」

Talk Session 2「VCが見る未来──投資家が期待するスタートアップとは」では、ベンチャーキャピタル(VC)にて、多くの企業への投資に関わる2名が北海道の投資環境を語った。モデレーターは、株式会社KOTAのFounder兼CEOの小林功氏だ。

セッションの冒頭、小林氏はエンジェル投資家としての切実な市況感を切り出した。 「実は今の市況の中で、私自身ここ1年ほどスタートアップへの投資を止めています。それほどまでに今の投資環境は難しいと感じていますが、VCのお二人は現在の市況をどう見られていますか?」

まず、昨今の投資環境全体を語ったのは、大学発の技術や発明を社会実装するために、投資や支援をおこなう株式会社慶應イノベーション・イニシアティブにて、プリンシパルを務める鳥居優人氏だ。スタートアップ投資はいま二極化が進んでいると分析する。

「いまは投資家たちに人気のある銘柄とそうではない銘柄がハッキリと分かれており、限られた一部の企業に資金が集中してしまっていると感じています。人気の条件は大きく4つです。1つ目は経営チームがいいこと、2つ目は市場の期待値が高いディープな分野であること、3つ目は業界で高いシェアを獲得していること、4つ目はサプライチェーン・バリューチェーン全体を自社で一体的に構築していることです」

また、鳥居氏によると投資した資金をどのように回収するのかという「出口」の安定性が重視されるようになったとのこと。償還期を10年に設定するファンドが多く、それにともなって、投資のタイミングは従来より後ろのフェーズへシフトしているとのことだ。

株式会社DGインキュベーションで取締役を務める佐々木も「エンジェル投資家が投資を止めるほど全体の市況は渋く、シリーズA以降は特に厳しさが増している」と同意する一方で、「シード期へ投資するVCは多いため、シード期の起業家にはチャンスがある」と語った。

さらに近年の起業家の変化について、佐々木は次のように述べた。

「最近は、デジタルガレージグループが運営するスタートアップ育成・投資プログラム『Open Network Lab』に参加する起業家のうち、最初からアーリーエグジットを目指す人が増えました。起業から2年以内で数億円〜10億円規模の事業売却を目指し、そこで得た資金を元手に新しい事業を立ち上げるというチームも多いです。

少し前までは、アーリーエグジットなんて考えられないという風潮でした。『人生を懸けてまでやることか』と諌める投資家も多かったです。しかし、いまは『それもいいよね』と柔軟に受け入れてもらえ、起業家にとって選択肢が広がったと思います」

議論が深まる中、小林氏はバリュエーション(企業評価額)に関するシビアな質問を投げかけた。 「最近は『時価総額100億円を超えるストーリーが描けないと投資が通らない』といった足切りラインの話も耳にします。実際の投資委員会ではどういう議論がなされているのでしょうか?」

佐々木「投資委員会では必ず『100億円の壁をどうやって超えるのか』が厳しく問われます。そのため、投資先のスタートアップとは打ち合わせを重ね、目線合わせをします。IPOが難しいとなった場合は、M&Aやカーブアウトの支援に注力することもあります」

鳥居氏「当社の場合、最近は100億円規模も通りにくく、現在は見送る方針です。年間で2件ほどは『500億円以上の規模でIPOを目指せる』という投資先が現れるため、その2件をいかに見極めるかに注力しています」

続けて鳥居氏は、投資の評価基準についても言及した。

「評価されやすいのは、足元の順調さや現実的な成果を示せている企業です。その上で『3年後の爆発的な成長ストーリー』があり、なおかつ『将来の爆発力』に納得感のあるロジックが見えるかどうかが、非常に重要だと考えています。

とくに私が担当するバイオ・ライフサイエンス領域では、他分野と比べて多くの投資が必要で、IPO(株式公開)では回収しきれない可能性があります。そのため最初からIPOは狙わず、メガ・ファーマ(グローバルに事業を展開する大手製薬企業)への売却が可能な事業計画かどうかを評価します」

さらに佐々木は、北海道の企業への投資の可能性について見解を語った。

「いまは世界的に、AI関連サービスの開発が多いです。東京では多くのソロプレナーが新しいAIサービスの開発に挑戦しており、京都でOpenAI協力のもと開催したピッチイベント『Series T – Post AGI from Kyoto』には、1週間で280社の応募がありました。

北海道でAIサービスの開発に挑む場合、一次産業にAIを組み合わせるといった、地域の特性を活かした事業がおもしろそうだと思います。とはいえ、いまは誰もがAIサービスの開発をしており、AIにこだわる必要はないと思います。世界に通じる課題を発見し、課題解決のための事業を北海道から始めるチームに、我々としてはぜひ支援させていただきたいです」

最後に、2人それぞれが参加者たちにメッセージを送った。

鳥居氏「私は北海道に住んでいて、この場所が大好きです。北海道で挑戦するスタートアップを応援したい気持ちは強いです。

よく『北海道の起業は投資されにくい』と言われますが、そんなことはありません。広大なフィールドがあり、むしろ他の地方と比べて研究開発の面では有利な場所です。最終的には、起業家がいかに熱意をもって投資家を口説けるのかが大事なのだと思います。情熱をもって新しい挑戦に取り組む方がいらっしゃれば、ぜひお話しさせてください」

佐々木「VCの方々に『投資したい』と思わせるのは難しいことです。ときにはプレゼンがうまくいかないときもあるでしょう。どうか諦めず、足りない部分を補いながら、鳥居さんのような方々に熱意を伝え続けてほしいです。

HooKには挑戦を続ける人たちが集まります。壁打ちや、次のチャレンジに向けた議論をしに来てもらえればと思います」

HooKが生み出す、北海道の新しいスタートアップ・エコシステム

2つのトークセッションを締めくくったのは、HooK 館長の田﨑勇二の挨拶だ。開業から1カ月足らずで多くの問い合わせと申し込みが寄せられている現状への感謝を述べ、HooKの目指す未来を語った。

「私たちの目的はレンタルスペースを埋めることではありません。ここからがスタートで、スタートアップを盛り上げるための場所にしていければと思っています。そのために、ここにお集まりの皆さんをはじめ、多くの方々のご協力が必要です。ぜひこれからよろしくお願いいたします」

イベントの締めくくりには、参加者全員での記念撮影とネットワーキングがおこなわれた。会場では、登壇した起業家と投資家、札幌のスタートアップ、学生、そしてHooKの運営メンバーが入り混じり、言葉を交わしていた。「つながることで、挑戦は加速する。」というイベントテーマを象徴する光景だった。北海道で新しいスタートアップ・エコシステムが、いままさに誕生しつつある。

後編では、3名のHooK運営メンバーにインタビュー。HooK誕生までの軌跡と、運営にかける思いを語ってもらった。

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