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【Series T – Post AGI from Kyoto】AGIの先へ──京都で始まった、総額最大100万ドル相当の「Token」を調達する新たなラウンド

2026年7月1日、AIネイティブなスタートアップおよび開発者を対象としたピッチイベント「Series T – Post AGI from Kyoto」が、京都市京セラ美術館「光の広間」で開催された。日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2026 KYOTO」の公式サイドイベントとして、国内外の投資家や事業会社を含む約100名を超える参加者が集まった。

主催は、株式会社デジタルガレージが運営する日本初のシードアクセラレーター「Open Network Lab(Onlab)」だ。本イベントはOpenAIの協力をはじめ、Amazon Web Services、Notion Labsといった強力なエコシステムパートナー各社の支援のもと「AGI(汎用人工知能)が現実となる世界で、スタートアップは何を創るべきか」というテーマで開催された。

OpenAI OpCo, LLC(以下、OpenAI)の協力のもと、優勝者には10万ドル相当のOpenAI APIクレジットが付与され、その他のファイナリスト、ピッチ参加者、選考通過者にもクレジットが配られた。その総額最大100万ドル相当にもおよぶ。

会場の京セラ美術館は1933年に開館した、現存する日本最古の公立美術館建築だ。90年以上の歴史を刻んだ建物を舞台に、「AGIの先」が語られる。過去と未来が交差した一日の模様をお届けする。

なお、Series Tの開催にあたり、共にイベントをつくり上げ、多大なるご支援をいただいた企業の皆様に、深く感謝いたします。

協力: OpenAI OpCo, LLC
Ecosystem partner:Amazon Web Services, Inc.
Ecosystem partner:Notion Labs, Inc.


<Speakers>
OpenAI Head of Ecosystem Strategy & Partnerships, APAC / Japan Anna Mutoh
株式会社デジタルガレージ 執行役員 佐々木 智也
株式会社デジタルガレージ Open Network Lab 清原 三雅


<審査員>
Head of Startups, APAC, OpenAI Thomas Jeng
Alumni Ventures Japan 代表 中田 竜太郎
Head of Tokyo AI Innovation Lab, Supercell Jerry Chi
Head of Investment,General Partner,Onlab Fund / DG Incubation 遊佐 康佑

(所属・肩書はイベント時点)


Series Aの前に、Series Tを──「Token」が経営資源になる時代

Series Tの「T」は、「Token(トークン)」を意味する。イベントの冒頭、主催であるOpen Network Labの清原三雅が登壇し、開催趣旨を力強く語った。

「AIネイティブなスタートアップにとって、高性能なAIモデルへのアクセスと、その利用を支えるAPIクレジットは、人材や資本と並ぶ重要な経営資源です。LLMの利用時に消費される「Token」にちなみ、プロダクトの立ち上げ期にAPIクレジットを獲得し、検証と開発を加速させる新たなラウンドとして「Series T」と名付けました。」

加えて、清原はピッチイベントのテーマ「Post AGI」にも触れる。

「テーマにあえて『Post AGI』という言葉を入れたのは、AGIが現実となる世界で、『人間だからこそ生み出せる価値は何か』という問いを、参加者の皆さんと一緒に考えたかったからです」

冒頭の挨拶をする株式会社デジタルガレージ Open Network Lab 清原 三雅

続いて、協力企業であるOpenAI OpCo, LLCからAnna Mutoh氏が登壇。この日のために日本、シンガポール、韓国、アメリカのメンバーが会場に駆けつけたと話し、会場に集まった挑戦者たちへの期待を語った。

「今日この場所から、これからの10年、20年を代表する企業が生まれるかもしれません。大切なのは『何ができるのか』ではなく『何を生み出すか』。総額最大100万ドル分のAPIクレジットは、単なる賞品ではなく、皆さんがこれから形にしていくアイデアへの投資です」

当日は、海外14カ国以上から280社を超える応募が集まり、スタートアップから個人事業主、学生・研究者まで多様な挑戦者のなかから、選考を勝ち抜いた15組がファイナリストとして登壇した。

審査員は、事業性、AI活用、市場性、ファウンダーの資質などをもとに各チームを総合的に評価し、上位3チームを決定する。1位に10万ドル、2位に5万ドル、3位に2万5,000ドル相当のAPIクレジットが贈られ、さらにオーディエンス賞やファイナリスト・書類選考通過者への特典も合わせると、イベント全体では、最大100万ドル相当のOpenAI APIクレジットが提供された。単発のピッチイベントとして異例の総額だ。

ここからは、15組のなかから見事上位に選ばれた3チームの発表内容を、第1位から順に紹介する。

【第1位】InfiniMind, Inc.|動画に「信頼」をもたらす映像AI「DeepFrame」

InfiniMind, Inc.は、映像、音声、画面上のテキストを同時に解析し、すべてを一つの文脈として理解するビデオインテリジェンスプラットフォーム「DeepFrame」を開発している。DeepFrameに映像を読み込ませれば、知りたいことを聞くだけで、根拠となるシーンを示しながら質問に回答してくれる。

これまで検索や解析が困難だった動画という非構造化データに対し、映像ライブラリからの情報検索、コンプライアンスチェック、店舗映像による消費者の行動分析など、幅広い活用が考えられるプロダクトだ。

登壇した共同創業者兼CEOのAza Kai氏によれば、複雑な文脈を理解する独自の映像基盤モデルを構築しており、いわば「動画に特化したChatGPT」のような汎用的な働きをするという。ピッチの冒頭、Kai氏は1つの数字を提示しつつ、動画があふれる時代の課題を説明した。

「過去24時間で人類が生み出した動画コンテンツは、およそ240億時間にのぼります。1時間の動画をレビューするには、最短でも約45分かかるといわれているなか、もはや人類全体でも見きれない量の動画が毎日生まれ続けているのです」

実際に、動画を確認しきれないことによる問題は現実に起きている。Kai氏は、テレビ局の字幕の誤表示や、各国の基準への対応が不十分なまま動画配信された事例を挙げ、いずれも氷山の一角にすぎないと指摘した。

そのうえでKai氏は、放送・映画業界のコンプライアンスレビューをDeepFrameの当面の主要ユースケースに据えると語った。

「たとえば200時間のドラマシリーズを世界各国の規制と照合しようとすると、専門知識をもつ人材の確保が難しく、人の目ではとても追いつきません。DeepFrameは専門家の知識をAIシステムに取り込み、動画から信頼できる構造化データを生成します」

すでに日本のMBS(毎日放送)をはじめとする大手放送局や大手小売・物流企業がInfiniMind社の技術を導入しているという。出力は単なる回答テキストだけでなく、企業のシステムで扱いやすい「構造化データ」として提供されるのが特徴だ。最後にKai氏は、事業の核となる思想を「Trust(信頼)」という言葉で表現した。

「カメラや動画を生成するAIツールの普及で映像の量は増え続けています。同時に、AIの利用料は安価になり、誰もが使えるようになりました。しかし、いまのAIによる解析結果はまだ100%信頼できるものではありません。

だからこそ私たちは、AIモデルの出力をそのまま信じるのではなく、信頼を担保する仕組みづくりに力を入れています。データは各企業のプライベートな環境で扱い、出力されたすべての回答に根拠となる映像シーンを添える仕様です。

AGIの登場で高度な知能が当たり前のものになっても、最後まで価値をもち続けるのは『信頼』だと、私たちは考えています」

ピッチをするInfiniMind, Inc. 共同創業者兼CEOのAza Kai氏

【第2位】株式会社AntAI|ハルシネーションを防ぐ記憶インフラAI「Mira」

株式会社AntAIは、プロダクトチーム向けの記憶インフラAI「Mira」を開発している。Miraは、チームが日々くだす意思決定について、「何が原因で、何が起きたのか」という因果関係をナレッジグラフ(※)として蓄積する。その結果、AIエージェント導入で課題となる、文脈の欠落によるハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成してしまう現象)を防げるのだ。

※ナレッジグラフ:人や出来事、情報同士の関係性を線で結び、網の目状に整理したデータ構造。記録を1件ずつバラバラの点ではなく関連性ごと保存するため、AIが物事の背景や因果関係を辿りやすくなる。

登壇した代表取締役の石川拓也氏は、AIエージェント時代の弱点の指摘から始めた。

「AIモデルはコモディティ化しましたが、どのモデルも同じ壁に突き当たっています。AIは物事の表面しか見えず、『なぜそれが起きたのか』という因果の連鎖を辿れません。だからAIエージェントは日々推測で実行を重ね、トークンを浪費するだけでなく、『AIがなぜその判断をしたのか』を誰もあとから検証できないというリスクも生んでいるのです」

Miraに接続すると、過去6カ月分の意思決定の履歴が自動的に取り込まれ、以降はチームメンバーやAIエージェントが触れるすべての意思決定・シグナルが蓄積される仕組みだ。ある大手企業のプロダクトチームでは、従来7日間かかっていた原因調査が、導入後はわずか20分で完了したという。

「Miraは、社員の頭の中に散らばっていた記憶や判断を1カ所に集めた、いわば『会社の頭脳』です」と石川氏は力を込めた。現在、AntAI社は主にプロダクト開発チームを対象に、AmazonやIndeedなどの世界的な大手企業とプライベートベータ版を運用中で、直近2週間だけで280チームがMiraの利用を申し込んだ。

さらに、審査員から「金融やマーケティングなどあらゆる領域に適用できるはずだが、なぜ最初のユースケースとしてプロダクトチームを選んだのか?」と問われると、石川氏は次のように答えた。

「プロダクトマネジメントの現場は、テキストだけでなく動画や音声、デザインなど多様なデータ(マルチモーダル)を扱い、PMやエンジニアが数十ものツールを同時に使用する『最も複雑な文脈』が存在する領域だからです。現在、多くのAIエージェントがそうしたツール上で推測に基づいた実行をしてしまっており、我々はここが最も緊急性が高い市場だと考えています」

Miraがこの最も複雑な領域で実績を積んだ先に見据えるのは、ソフトウェア開発にとどまらない。石川氏は最後に「将来的な展望として、例えば防衛テクノロジーにおけるドローンの頭脳など、あらゆる領域に応用できると考えている」と語り、AIが人間の専門知識をスケールさせ、誰もが信頼できる判断基盤となる未来の構想を明かした。

ピッチをする株式会社AntAI 代表取締役の石川拓也氏

【第3位】OselAI株式会社|「IF世界」で、推し続けられる「Parallelive」

OselAI株式会社は、卒業・解散した実在アイドルや、完結したアニメ・漫画のキャラクターが暮らす「もしもの世界」にファンが没入し、チャットやSNS型の体験を楽しめるAIコンパニオン特化型プラットフォーム「Parallelive」を開発している。事務所・公式による監修のもと「もしもストーリーが続いたら」という仮定で、タイムラインを毎日更新することで、ファンの熱量を維持する仕組みだ。

登壇した代表取締役の本間心氏は、ファンなら誰もが覚えのある喪失感からピッチを始めた。

「大好きなアーティストが突然活動を休止した、好きなアニメが終わってしまい心に穴があいた、そんな経験はありませんか。日本では毎年約250組のアイドルグループが解散しています。卒業や完結でファンの熱量が失われることによる機会損失は、世界全体で78億ドル規模にのぼります」

OselAI社はすでに、必要最小限の機能に絞った試作版として公開済みだ。自社のAIシナリスト技術を活用し、小説プラットフォームで上位を獲得するなど確かな実績を持つ。デモでは、小説の気になる一節を選択すると登場人物本人に直接質問でき、物語の文脈を踏まえた答えが返ってくる様子が披露された。続けて本間氏は、既存IPを活用する事業モデルの強みを説明した。

「すでに多くのファンがいる公式IPからスタートするので、ゼロから顧客を集める必要がありません。また、オリジナルのキャラクターをつくる場合は人気が出るかどうかが賭けになりますが、既存IPなら需要が実証された状態から事業を始められます。現在は大手音楽会社とPoC(概念実証)を進めていて、既存のファンクラブに組み込めば、数万人規模のファンに一気に届けられます」

さらに、審査員からIPの権利保護に関する懸念を問われると、本間氏は業界の構造的課題に言及。「プラットフォームや事務所だけでなく、活動を辞めて収入が途絶えてしまったタレント本人にも、しっかりと収益が還元される仕組みにしたい」と回答した。

ファンの喪失感を埋めるだけでなく、クリエイターやアイドルの持続可能な経済圏をつくるという強いビジョンを示した。

ピッチをするOselAI株式会社 代表取締役の本間心氏

Series Tは、スタートアップ投資の新しいスタンダードへ

すべての授賞が終わると、デジタルガレージ執行役員の佐々木智也が登壇し、閉会の挨拶を述べた。

「AGIが実現したあとの世界では、何が起こるのか。今日は、大きな問いに挑む多様なスタートアップの構想を聞くことができました。私たちは、Series Tを一度きりの試みで終わらせるのではなく、これからも続けたいと考えています。より多くのスタートアップにチャンスを提供していきたいです。ぜひ、今後にご期待ください」

AGIが現実となる世界で、スタートアップは何を創るべきか──。壮大なテーマを掲げた一日は、15組の多彩なピッチと会場の熱気に包まれて幕を閉じた。

高性能なAIモデルを大量に使いこなすことが競争力に直結していく時代、資金調達より先にTokenを調達するSeries Tのようなラウンドは、AIネイティブなスタートアップの当たり前の選択肢になるかもしれない。京都で始まった新しい試みは、スタートアップ投資の、これからのスタンダードを予感させた。

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