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【連載:デジタル広告の未来】
フェイクニュースや生成AIを悪用した記事など悪質なメディアが氾濫するインターネット環境で、今「デジタル広告」が果たすべき役割、そして求められる変革とは?良質なメディア環境の実現を目指す広告・メディア企業が立ち上げた「クオリティメディアコンソーシアム」に加盟する各社へのインタビューを通じ、その課題と未来を連載する。前編はこちら。
<Speakers>
Globalive株式会社 代表取締役社長 梅野 浩介
株式会社日本ビジネスプレス 代表取締役社長 菅原 聡
株式会社日本ビジネスプレス 執行役員 長島 章夫
株式会社デジタルガレージ 執行役員CDMO 兼 株式会社BI.Garage 代表取締役CEO 新澤 明男
株式会社BI.Garage 特命顧問/クオリティメディアコンソーシアム 事務局長 長澤 秀行
(所属・肩書はイベント時点)
メディアの訪問者は人間からAIボットへと急速に置き換わりつつある。だが人間に対しては広告を見せる、有料会員に誘導する、アフィリエイトリンクから商品を買ってもらうといったマネタイズの手段がある一方、「AIボットが来訪しても収益化するインフラが整っておらず、既存の価値交換モデルとAI時代の情報流通の間にギャップが生まれている 」とGlobalive代表取締役社長の梅野氏は指摘する。
米国発のNovoscribeが開発・運営するTollBitは、まさにこのインフラを担うプラットフォームだ。同サービスでは、メディア企業がAIボットへの対応を「監視」「管理」「収益化」の三段階で進められる。
最初のステップは「監視」。TollBitを導入すると、どのAIボットが、どのコンテンツに、どれだけの頻度でアクセスしているかをリアルタイムに把握できるようになる。多くのメディアにとって、そもそもAIボットが自社サイトにどの程度来ているのかすら見えていないのが現状だが、TollBitを導入すればすぐに可視化できる。
次のステップが「管理」。可視化した実態をもとに、AIボットのアクセスを制御する。TollBitを導入したメディアでは、検知されたAIボットは専用のサブドメインに振り向けられ、未契約のボットにはコンテンツへのアクセスが許可されていない旨が通知される。例えるなら「AIボット向けの自動改札」と言えるだろう。
そして「収益化」。メディアはサイトを訪れたAIボットごとに、コンテンツの販売価格やライセンス条件を設定できる。アクセスごとの従量課金にも、AI企業との個別契約に基づく定額利用にも対応しており、設定した料金の100%がメディアの収益となる。
加えて、TollBitはコンテンツをAIが読み取りやすい構造化データに変換する機能も備え、メディアがAIによるアクセスを積極的にマネタイズポイントにするための仕組みを整えている。
4社の協業では、こうした仕組みをメディア業界全体に広げていくことを目指す。日本ビジネスプレスは自社が多くのメディアに提供するCMS「Media Weaver」を通じた展開を、BI.Garageは新聞・雑誌・テレビなど30社超が広告配信で連携する「クオリティメディアコンソーシアム」の加盟メディアへの提供をそれぞれ推進。大手出版社や新聞社を含む国内有力メディアが続々と導入を決め、すでにTollBitを通じた収益化に動き出したメディアも現れている。
では、こうしたインフラを基盤に、メディアビジネスそのものをどう設計し直すか。日本ビジネスプレス代表取締役社長の菅原氏が重視するのは、収益の軸そのものを増やす発想だ。
「これからはAIも顧客として捉える、新たな収益化の考え方が必要になります。BtoBに対して『BtoA(Business to AI)』と呼ぶような新しい販売先として、人間向けとは別に情報資産を扱うのです」
ポイントは、AI向けと人間向けでコンテンツを「別の商品」として設計することだと同氏は説明する。
AIに向けては、正確性や構造化を重視した「情報の卸売り」を。人間の読者に向けては、文脈や感情、読む楽しさを大切にした「体験の小売り」を——菅原氏はこう表現する。
具体的には、ファクトベースのストレートニュースのように「事実を伝えること」に徹したコンテンツは、AIの回答に組み込まれることで価値を発揮する。こうした情報はAIに積極的に提供していく。一方、エッセイや特集記事のように「読む体験そのもの」に価値があるコンテンツは、人間の読者のために丁寧に磨いて届ける。
同じ素材であっても届ける相手によって仕立てを変える必要があるのだ。
米調査会社のeMarketerは2026年4月、Metaのデジタル広告収入が2026年内にGoogleを初めて上回る見通しを発表した。※ 検索や情報収集の領域はAIに代替されていく一方で、ユーザーが時間を費やしているのは、InstagramやTikTokで自分が好きなクリエイターやメディアの発信に触れる時間だ。広告予算もそれに伴って数年来シフトを続けてきた末の、ひとつの節目にあるのだとBI.Garage代表取締役CEOの新澤氏は受け止める。
「効率よく情報を探したいとき、ユーザーはAIで答えを得れば済みます。一方で、自分がファンとして追いかけているメディアやクリエイターの発信には、ユーザーは時間をかけて接する。広告予算は今、熱量のある読者を抱えているメディアのほうに集まる流れが強まっています」
このマネタイズの発想の転換は、ひとつの仮説にとどまらない。すでに具体的な事例として現れ始めている。
2026年1月に4社が共催したメディア向けセミナー「AI×コンテンツライセンスの最前線 ~パブリッシャーが切り拓く新しいメディア戦略~」では、メディアジーン代表取締役CEOの今田素子氏と、日本ビジネスプレス代表取締役社長の菅原氏との対談がおこなわれた。両氏が共通して指摘したのは、メディアが売っているものの本質は「読者とのエンゲージメント」だという点だ。
今田氏が紹介したのは、ギズモード・ジャパンが手がけたトラックボールデバイス「Keychron Nape Pro」のプロジェクト。同編集部員の綱藤公一郎氏が個人開発を起点に、世界的キーボードブランドのKeychronとの共同開発で製品化したもので、メディアジーンが運営するプラットフォーム「CoSTORY」上で2025年11月にクラウドファンディングを開始。第一弾・第二弾を通じて累計購入総額は4億円を超え、米テクノロジーメディアTom’s Hardwareが発表した「Best of CES 2026」では「Best Mouse」を受賞した。
「綱藤には自作キーボードの世界で築いた文脈とコミュニティがあり、そこから生まれた熱量が、製品の購入という具体的な数字につながりました。パブリッシャーが売るのはブランドであり、信頼であり、コンテキストなのだとあらためて感じました」と今田氏はセミナーで語った。
さらに今田氏は、AI時代におけるパブリッシャーの存在意義についてこう強調した。「パブリッシャーがコンテンツを作れなくなって世の中から情報が枯渇すれば、AI企業は情報を捏造するしかなくなってしまいます。だからこそ、パブリッシャーが持つ信頼や、情報を正確に届ける力は、今後改めて見直されるはずです」
菅原氏自身も、日本ビジネスプレスが運営する「JBpress Innovation Review」で同様の手応えを得ているという。
「企業内で変革を進めようとしているイノベーションリーダーをターゲットにした媒体で、セミナーやイベントと組み合わせて運営しています。一般的な運用型広告中心のメディアと比べると、PVあたりの収益で25倍の差がついている。読者エンゲージメントがしっかりしている媒体は、マネタイズの効率が桁違いに変わります」
AI時代のマネタイズ論は、AIを新しい顧客や流通先として位置づける動きと、人間の読者との直接的なエンゲージメントを育むこと、その両輪で考える必要があるのだ。
AI時代のマネタイズには、もうひとつ避けて通れない論点がある。決済インフラだ。
菅原氏はこのように指摘する。「AIトラフィックの都度決済は、超小口で、高頻度で、国境をまたいでやりとりされます。これに従来の決済インフラはまったく適さない」。人間の逐次的な指示なしで自ら業務を遂行するAIエージェントがコンテンツに対価を払う時代が来れば、銀行送金やクレジットカードでの支払いでは追いつかない。
そこで現実味を帯びてきた手段が、法定通貨に価値を連動させた暗号資産「ステーブルコイン」を使った決済だ。「ステーブルコインを使えば、AIエージェントがブロックチェーン上で自律的に決済する仕組みがつくれます。もう間もなく現実になるでしょう」と菅原氏は語る。
一方で、web3領域の現状について「関わっている人の9割が投機目的」と冷静に分析しつつ、「残りのわずかな技術的な本質こそが、メディアにとって非常に相性が良い」と語る。「個人情報をメディア自身でコントロールし、著作権を保護しながら利用実績に応じて収益を自動で配分する。そうした仕組みを作る上で、スマートコントラクトなどのブロックチェーン技術は不可欠になります」
新澤氏も「AIエージェントが世界中のサービスを横断して使えるようになるなかで、通貨が円かドルか以前の問題として、AI同士のお金の流通が必要になる」と補足する。
日本でも、こうした流れを支える法整備が動き始めている。政府は2026年4月10日、暗号資産を金融商品として規制対象に位置づける金融商品取引法の改正案を閣議決定した。今国会で成立すれば2027年度に施行され、暗号資産取引の分離課税適用は施行の翌年1月、すなわち2028年1月から始まる見通しだ。アセットクラスとして認められることで、実用フェーズに移行しやすくなる。
こうしたインフラが整えば、AIエージェントとメディアの間で対価がやりとりされるだけでなく、その先のシナリオも見えてくる。AIエージェントが商品の購入や予約を代行するようになると、その判断材料として使われた記事やレビューにも、収益が分配される可能性がある。たとえば、ある商品が購入されたとき、最後に購入ボタンを押したサイトだけでなく、AIが参照した比較記事や専門メディアの記事にも対価が戻るといった仕組みだ。
菅原氏は、音楽配信で再生に応じて権利者に収益が分配されるように、メディアのコンテンツにも利用実績に応じた収益分配がやがて広がっていくと見る。
新しい収益チャネルや決済インフラと並行して、各メディア自身が取り組むべきこともある。菅原氏は、過去の過ちを繰り返してはならないと指摘する。
たとえば、それぞれのメディアが進めてきたDXは、本来なら自社の読者接点や収益基盤を強くするためのものだったはずだ。ところが現実には、検索やSNS、広告プラットフォームへの依存を深め、コンテンツも読者データも広告収益もプラットフォーマーの成長に吸い上げられる構造を生んできた。「AIに対して、同じことをしてはいけません。AIに合わせるだけの『守りのDX』ではなく、自分たちの勝ち筋に向けた『攻めのDX』が必要です」と菅原氏は言う。
ここで言う勝ち筋とは、プラットフォーマーに依存せず、メディアが読者と直接つながる経路を取り戻すことを指す。さらに菅原氏は続ける。「自分たちのコンテンツを読者に届ける導線も、広告を配信する仕組みも、これまでは外部のプラットフォーマーに委ねてきました。その結果、今の厳しい状況がある。読者との直接の接点を少しずつでも増やす努力が必要です」
そのための手段として菅原氏が注目するのが、AIとweb3の技術の組み合わせだ。菅原氏は、メディアビジネスの本質は単なる情報の提示ではなく、世界観を共有する「コミュニティビジネス」であると再定義する。「ただの『情報』はAIに取られて無料になってしまいます。だからこそ、人間が介在して伝えるエンタメ性や、メディアの世界観に没頭できる体験、そしてそこから生まれるコミュニティの形成にフォーカスしなければ生き残れません」 そのコミュニティを維持・拡大するための具体策として、「たとえば10万人の読者一人ひとりに、AIエージェントが個別に対応するような関わり方も、今なら現実的にできる。『読者エンゲージメント』を、最新のテクノロジーで取り戻すのです」と菅原氏は言葉に力を込める。
つまり、先に論じたステーブルコインもAIエージェントも、外部プラットフォームに委ねてきた読者との接点や収益の流れをメディア自身が主導できるようにするための仕組みとして位置づけられるわけだ。
その文脈で、決済やweb3領域に取り組んできたデジタルガレージグループの役割も見えてくる。AIとメディアのあいだに生まれる新しいお金の流れを、どう実装可能な仕組みに落とし込むか。今回の協業は、その実践も見据えている。新澤氏も「AIからメディアへのお金の流通がステーブルコインベースになっていく中で、その決済インフラの構築をDGグループ全体としてお手伝いしたい」と、今回の協業におけるデジタルガレージの役割と意気込みを強調した。
ここまで論じられてきた未来図は、自然に実現するわけではない。AI企業がすでに無料で取得できているコンテンツに対して、自ら進んで対価を払い始めるとは考えにくい。だからこそ梅野氏は、業界として連携していく必要があると話す。
「メディア各社が個別に取り組むだけでなく、業界全体でこの構造を変えていかなくてはなりません。そのためには、まずAIボットがどれだけ自社のコンテンツにアクセスしているのかを可視化し、ライセンス契約や課金につなげていくことが重要です」
こうした仕組みが整えば、AI企業にとっては正規のルートでコンテンツを利用しやすくなり、メディアにとっては収益化の道が開ける。そして生活者も、AIを通じて良質な情報に触れやすくなる。長澤氏も、自身が事務局長を務めるクオリティメディアコンソーシアムの活動を踏まえて同調する。
片や新澤氏は、権利保護やマネタイズの議論に加えて、AIを活用することによるメディアの可能性にも目を向ける。
「AIによって効率化できる部分が増えれば、メディア側は、読者との関係づくりや企画、広告主との新しい接点づくりにより多くの時間を使えるようになります。AIにコンテンツをどう使わせるかだけでなく、メディア自身がAIをどう使って価値を広げるかも問われていると思います」
最後に菅原氏は、そうした変化の先にあるメディアの未来に期待を寄せた。
「AIの普及には確かに、既存のメディアビジネスを壊す側面があります。しかしビジネスを時代に合ったカタチに再構築するのもまたAIとweb3かと。これからの5年間は、メディアにとって面白い時代になると思っています」