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【ClawCon Tokyo #2】OpenClaw創設者が東京で語った、「AIエージェントの広がる未来」

2026年3月30日、AIエージェントのオープンソースプロジェクト「OpenClaw」のコミュニティイベント「ClawCon Tokyo」が渋谷で開催された。ClawConは、OpenClawのユーザーや開発者が一堂に会し、活用事例の共有やライブデモを通じてプロジェクトの可能性を探るイベント。2026年2月にサンフランシスコで第1回が開催されて以降、世界各地を巡り、アジアでは今回が初開催となった。

デジタルガレージは、本イベントの共同ホスト(Co-host)を務めた。これまでも、社会にパラダイムシフトをもたらす最先端テクノロジーの国内普及やコミュニティエコシステムの構築を牽引してきた同社。グローバルなテックトレンドと日本のスタートアップシーンを直結させる実績があったからこそ、アジア初の開催地として東京・渋谷での開催が実現した。

世界的に注目が集まるプロジェクトの最前線の模様を、前後編でお届けする。前編はこちら

会場を見渡すと、プロジェクトの象徴である「ロブスター」のコスプレをした参加者の姿がそこかしこに見られた。参加者にはロブスターロールも振る舞われ、単なるテックカンファレンスというよりも「お祭り(フェスティバル)」のような熱気と一体感に包まれていた。

後編では、OpenClaw創設者のPeter Steinberger氏、OpenClaw FoundationボードメンバーのDave Morin氏によるトークセッションの内容をお伝えする。モデレーターは、ポッドキャスト番組「Off Topic」の宮武徹郎氏が務めた。

わずか4カ月で世界のテックコミュニティを巻き込んだプロジェクトの誕生の経緯から、AIエージェントがもたらすソフトウェアの未来像まで、セッションの全容をお伝えする。


<Speakers>
OpenClaw 創設者 Peter Steinberger
OpenClaw Foundation ボードメンバー/Offline Ventures 共同創業者兼マネージングパートナー Dave Morin
Off Topic 代表 宮武徹郎
Offline Ventures Partner & Cofounder James Higa

(所属・肩書はイベント時点)


4カ月で世界を巻き込んだ「一晩の思いつき」

2025年11月の公開以降、GitHubのスター数がMetaの開発したJavaScriptライブラリ「React」を抜き、オープンソース史上最も急速に広まったソフトウェアとなった「OpenClaw」。このプロジェクトはどのようにして生まれたのか。まずは宮武氏が、その出発点をPeter氏に尋ねた。

Peter氏は、PDFの表示・編集機能などをアプリに組み込むための開発ツール「PSPDFKit」の共同創業者としても知られる起業家だ。しかしOpenClawの出発点は、起業家としてのビジョンではなく、ごく個人的な不満だったと明かす。
「ずっと、自分のPCの操作を代わりにやってくれるAIがほしいと思っていました。でも世の中にはありませんでした。ある晩、自分でつくってみようと思い立って、AIのコーディングツールに『こういうものがほしい』と伝えたら、1時間で原型ができてしまったんです。動作した瞬間に興奮が止まらなくなって、そこから7時間ぶっ通しで機能を足していきました。あの夜からこのプロジェクトに取り憑かれています」

Peter氏自身はいつ「これは大きなものになる」と確信したのか。宮武氏がその転機を聞くと、Peter氏はすぐには気づけなかったと率直に振り返る。
「自分でも理解するまでに、開発してから1カ月近くかかりました。OpenClawの面白さは使ってみないとわからない。言葉で説明しても伝わらないんです」

確信に至ったきっかけは、友人の誕生日パーティーで訪れたモロッコでの出来事だったという。現地でOpenClawを使い倒していたPeter氏が、試しに音声メッセージを送ってみた。音声への対応は一切プログラムしていない。ところがOpenClawは、送られてきたファイルが音声データであることを自ら判別し、変換ツールを探し出して音声認識にかけ、文字起こしをしたうえで返事を返してきたのだ。

「普通のソフトウェアなら開発者が事前に組み込まない限りこうした処理はできません。OpenClawは想定外の状況に直面して、自分で手段を考えて解決したわけです。これはただごとではないと確信しました」

Fireside Chatで話すPeter氏

日常の困りごとを解決してのけたOpenClaw

Dave氏はFacebookの初期メンバーとして同社のプラットフォーム戦略を牽引し、その後モバイルSNS「Path」を創業。現在はAppleがアンカーLP(主要出資者)に迎えたVCファーム「Offline Ventures」を共同で率いている。OpenClawの存在を知ったのは、旧知の友人からの連絡がきっかけだった。

「1990年代から付き合いのあるハッカー仲間がグループチャットで『このOpenClawってやつ、見た?』と送ってきたんです。すぐに使ってみて、24時間後には妻に『こんなに面白いものは初めてだ』と話していました」

Dave氏がとりわけ衝撃を受けたのは、自宅のダイニングにあったデジタルフォトフレームでの体験だった。

「専用アプリの出来が最悪で、写真を入れ替えようとするたびに失敗する。ずっと同じ写真が表示されたままでした。ダメもとでOpenClawにお願いしたら、5分でフレームの通信の仕組みを調べ上げ、ログインを突破し、ブラウザから写真を入れ替えられる操作画面までつくってくれた。その瞬間に完全に心を掴まれましたね」

生き残るのは「AIエージェントにとって使いやすい」ソフトウェア

セッションの話題は、AIエージェント時代のソフトウェアのあり方、そして人間の側に求められるマインドセットへと広がっていった。

宮武氏は、新しいプラットフォームが登場するたびに繰り返されてきたパターンを指摘する。インターネットが普及し始めた頃、ブログは紙の新聞や雑誌の記事をそのままウェブに載せたようなものだった。スマートフォンが登場した当初も、アプリの多くはPC向けのウェブサイトを小さな画面に押し込んだだけのものにすぎなかった。

しかし時間が経つにつれ、UberやInstagramのように、そのプラットフォームでなければ成り立たないサービスが次々と生まれた。AIエージェントの世界でも同じような転換は起こりうる。宮武氏の問いに対し、Peter氏は次のように語った。
「早い段階で気づいたのは、人々がアプリを使わなくなっているということです。10年前はいくつ入れたか覚えていないくらいアプリをインストールしていました。でも今は、やりたいことをOpenClawに言えばいい。これが最も大きなパラダイムの変化だと思います」

Peter氏はこれまで、米国の人気ポッドキャスト「Lex Fridman Podcast」やY Combinatorのインタビューなどで、「アプリの80%がなくなるかもしれない」との見方を示し、話題を呼んできた。宮武氏がこの変化を早める要因について聞くと、Peter氏は「スマートフォンの操作の自動化がカギになる」と考えを述べた。

「今はPCの操作が中心ですが、iOSやAndroidの操作も自動化できれば、状況は加速します。これからの時代に生き残るソフトウェアは『AIエージェントにとって使いやすい』ものでしょう。人間のためのUIではなく、AIエージェントのためのUI設計をできるがどうかが、これからの企業の命運を分けると思います」

では、AIエージェントが作業の大部分を担う時代に、人間に求められるものは何か。宮武氏がこの問いを重ねると、Peter氏は過去の会社経営の経験から「任せる姿勢」の重要性を語った。
「社員が書くコードは、自分自身で書くものとは違います。でも会社として目指すゴールに向かっていれば、それでいい。完璧を求めすぎずにゴールに向かわせる姿勢は、AIエージェントとの付き合い方でも同じく大切だと思います」

Peter氏の発言を受けて、Dave氏はAIスタートアップChatPRDの創業者であるClaire Vo氏が、プロダクト開発の領域で著名なLenny Rachitsky氏によるインタビューで語っていた考え方を紹介。より具体的なAIエージェントとの向き合い方を示した。

「彼女はAIエージェントを『新しく雇った社員』のように扱うと話していました。役割を明確に定義し、最初は限られた権限だけ渡して、少しずつ任せる範囲を広げていく。新入社員にいきなり会社のすべてのデータにアクセスさせる企業はないでしょう。AIエージェントも同じだというわけです」

待ち受けるのは「ソフトウェアのカンブリア爆発」

セッション終盤、宮武氏はOpenClawのプロジェクトに携わる前から何度も来日しているDave氏へ、日本のコミュニティへ期待することを尋ねた。

「日本を訪れるたびに感じるのは、ものづくりの品質や細部へのこだわりに対する意識です。アメリカは新しいことを始めるのは得意ですが、長期にわたって質を追求し続けるのは苦手なところがある。OpenClawやFoundationの活動を長期的に考えるうえで、日本から学ぶことは非常に多いです」

公開からわずか4カ月で、国やビッグテックの動向も左右するプロジェクトと化したOpenClaw。この勢いが続いた先に、世界はどう変わっているのか。宮武氏が3年後の展望について問いかけると、Dave氏はソフトウェアを「使う人」と「つくる人」の境界が崩れる未来を提示した。

「iOSアプリをつくれる人は世界に約400万人、Androidを合わせても1000万人ほどいます。そしてそれを使っている人は、30億から50億人いる。しかしこれからは、つくる側に数千万人、数億人が加わるかもしれません。しかも彼らがつくるのは自分のためのプロダクトです。ソフトウェアのカンブリア爆発が起きるわけで、これは本当に楽しみです」

Fireside Chatで話すDave氏

Peter氏は、OpenClawがまだ始まったばかりのプロジェクトであることを強調する。

「すでにこれだけの反響があり実社会に影響を及ぼしているので、3年後と聞かれても正直想像がつきません。1年後すら想像できない。ただOpenClawの成長とコミュニティの広がりがますます加速しているのは、確かですね」

トークセッション後の会場でのQ&Aでは、参加者から「AIが単なるツールではなく、人類のパートナーとなるには何が必要か」という鋭い質問が飛んだ。

これに対しPeter氏は、「今のAIに最も欠けているのは継続的学習だ」と回答。「もしAIエージェントが毎晩『夢』を見て、自らの重みを調整して学習し、毎朝目覚めるたびに1%賢くなって、ゆっくりと自分に寄り添うように成長していくとしたら、それは本当に素晴らしいことだ」とパーソナルAIの究極の進化像を語った。

また、Peter氏は今もっともワクワクすることとして「非技術者がエンパワーされること」を挙げた。専門的な知見をもたない方々が、これまで難しかった複雑なデジタルツールの活用やプログラミングを、AIの力で実現する姿を見ることが、何よりの喜びなのだという。

PeterとDaveへのQ&Aセッションで、参加者が列を作って並んでいる様子

「Macintoshの誕生に立ち会ったときと同じ空気」

セッション終了後、クロージングのスピーチに立ったのは、James Higa氏。Dave氏とともにOffline Ventures共同創業者兼マネージングパートナーを務め、かつてAppleではSteve Jobs氏とともにMacintoshの開発に携わった人物だ。

Higa氏が引き合いに出したのは、1970年代のシリコンバレーで生まれたコンピュータ愛好家たちの集まり「Homebrew Computer Club」だった。Steve Jobs氏、そしてSteve Wozniak氏もここに通い、やがてAppleが生まれた。企業や大学の主導ではなく、テクノロジーに熱中する個人が自発的に集まり、知識を持ち寄るなかから産業そのものが立ち上がっていった。Higa氏は、ClawCon Tokyoの会場にも同じ空気を感じたという。

日本の起業家への敬意を込め、同氏は呼びかけた。
「Steve Jobsと一緒にMacintoshをつくっていた20代の頃、いつかパナソニック創業者の松下幸之助さんやソニー創業者の盛田昭夫さんのようになりたいと憧れていました。才能はここにある。頭脳もある、心もある、そしてClaw(爪)もある。一緒に未来をつくりましょう」

クロージングでスピーチをするHiga氏

イベントの最後は、再びDave氏が登壇。ClawCon Tokyoの次回開催も見据えながら締め括った。

「誰もが自分だけのAIエージェントを持つ時代は、まだ始まったばかりです。こうして集まって、テクノロジーがもたらす可能性を分かち合うのは、とても美しいことだと思います。東京にまた戻ってきて、こうした場をもっと開いていきたいですね」

その後、「Mac Mini賞」の発表やネットワーキングタイムなどがおこなわれた。
「Mac Mini賞」とは「最もクリエイティブなコスプレ」と「最強のビルダー魂(情熱)」を持つと認められた計10名にMac Miniが贈られるという企画。審査は参加者たち同士でおこない、「どんなコスプレをしているか」「今どんなものを作っているのか」などが審査対象となる。参加者はネットワーキング中に、素晴らしいと思った相手のネームプレートにシールを貼り、そのシールの数が多い上位10名が「Mac Mini賞」を獲得できる仕組みだ。

「AIと共に未来を創るビルダーたちの祭典にする」という趣旨のもと、さまざまなコンテンツが用意されたClawCon。会場はイベント終了まで異例の熱気に包まれていた。

OpenClaw創設者たちが描く「AIエージェント以後」の世界

イベント終了後、Peter氏とDave氏にあらためて話を聞いた。

AIエージェントが社会に浸透した先に、私たちの暮らしはどう変わるのか。そう尋ねると、Peter氏はAIエージェント同士が人間のコミュニケーションを先回りする未来像を示した。

「友だちに『今夜、何してる?』と電話する代わりに、自分のOpenClawが『こいつ暇そうだな』と察して、相手のOpenClawに確認してくれる。自分は、相手が空いていることがわかってから電話をかければいい。そのように先に連絡を取り合って、人間のやりとりをスムーズにしてくれるかもしれません。まだわからないことだらけですけどね」

さらにDave氏によると、AIエージェントが当たり前になれば、Excelのコピー&ペーストや文書間の転記など、これまで人間が手作業でこなしてきた作業の多くは、そもそもなぜ人間がやっていたのかと疑問に思う日が来るかもしれないという。

「これからは『コンピュータに話しかけて、やってほしいことをやってもらう』のが当たり前になります。そうなれば、もっとクリエイティブなことに時間を使えるようになるはずです。私が好きな問いは、『AIエージェント以前にはできなかったことで、今できるようになったことは何か?』。これを考えると、とてもワクワクします」

あらためて日本のコミュニティに伝えたいことを聞くと、Dave氏は「まず、OpenClawを試してほしい」と切り出した。
「家の中で『もっと上手く動いてくれたらいいのに』と思っている機器があれば、OpenClawに聞いてみてください。大抵なんとかしてくれます。AIを怖がらずに実際に触ってみることで、『自分にもこんなものがつくれるのか』という驚きが生まれるでしょう」

その言葉を裏づけるように、Dave氏はPeter氏がオーストリアのClawConで出会った86歳の男性のエピソードを披露した。この男性は父親のビール醸造機にOpenClawをつなぎ、レシピの検索から醸造、販売サイトの構築、決済システムとの接続まですべてOpenClawの力で実現したという。ビールの名前も、OpenClawが「Lobster Lager」と命名した。

「ソフトウェアをつくったことのない86歳の男性が、AIと一緒に一つのビジネスを立ち上げたんです。こういうことが、今まさに世界で起きているのです」

ある晩の思いつきから生まれ、世界的な注目を集めるプロジェクトへと成長したOpenClaw。この日のセッションで繰り返し示されていたのは、その勢いの源泉が技術そのものではなく、OpenClawを実際に使い、その可能性を具体的なかたちへと変えてきたユーザーたちの実践にあるということだった。

ClawConが巡る先々で育まれるつながりが切り拓くのは、単なる新しいツールの普及にとどまらない、「AIエージェントの広がる未来」との向き合い方なのだろう。

Peter & Daveのインタビュー映像はこちら
Clawcon Tokyo 2026 オフィシャルダイジェストはこちら

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