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【デジタル広告の未来 #05】AIが読み、人間は来ない?AIトラフィックの急増にメディアはどう対処すべきか

【連載:デジタル広告の未来】
フェイクニュースや生成AIを悪用した記事など悪質なメディアが氾濫するインターネット環境で、今「デジタル広告」が果たすべき役割、そして求められる変革とは?良質なメディア環境の実現を目指す広告・メディア企業が立ち上げた「クオリティメディアコンソーシアム」に加盟する各社へのインタビューを通じ、その課題と未来を連載する。

2026年4月20日には日本新聞協会が「AI検索サービスに関する声明」を発表した。報道コンテンツの利用には権利者の許諾が原則であるとしたうえで、加盟社が自らの意思でAI検索による記事収集を拒否できるオプトアウトの仕組みをGoogleなどの事業者が導入すること、およびその尊重を法的に義務付ける制度整備を国が早期に実施することを求めた。メディアとAIの関係は今、再定義の途上にある。

こうした流れのなかで、AIによるトラフィックを収益化するプラットフォーム「TollBit」を軸に、メディアコンテンツの価値保護に向けた協業を始めたのが、米Novoscribe、日本ビジネスプレス、Globalive、BI.Garageの4社だ。2025年10月に協業を発表し、2026年1月にはパブリッシャー向けセミナーを共催。約150名の業界関係者が集まった。

AI時代のメディアビジネスについて、どのように考えればいいのか。前線で議論を重ねてきた3社の日本企業に、現状に対する認識や各社の取り組みについて聞いた。


<Speakers>
梅野 浩介(Globalive株式会社 代表取締役社長)
菅原 聡(株式会社日本ビジネスプレス 代表取締役社長)
長島 章夫(株式会社日本ビジネスプレス 執行役員)
新澤 明男(株式会社デジタルガレージ 執行役員CDMO 兼 株式会社BI.Garage 代表取締役CEO)
長澤 秀行(株式会社BI.Garage 特命顧問/クオリティメディアコンソーシアム 事務局長)

(所属・肩書はイベント時点)


検索からAIによる回答へ──変わるインターネットの情報経路

海外のアドテク企業の日本展開支援を本業とし、TollBitの国内企業への導入も担うGlobalive代表取締役社長の梅野浩介氏は、インターネットそのもののあり方が、この四半世紀で築かれてきた前提から外れ始めていると指摘する。

「これまでのインターネット上での価値交換の仕組みはシンプルでした。人間が検索エンジンの結果からURLをクリックしてサイトを訪れる。メディアはそのページに広告を表示して広告主から収益を得たり、サブスクリプションによって読者から購読料を受け取ったりして事業を成り立たせてきました。ところが今は、ユーザーがAIに質問すると答えがその場で返ってくる。記事ページを訪れる理由がなくなりつつあります。また、これからはチャットAIだけではなく、検索・比較・予約・購入まで実行するAIエージェントが増えていきます。そうなると、AIによるコンテンツ利用はさらにリアルタイムかつ大量になります」

人間のユーザーの訪問は減る一方で、メディアでは別の訪問者が急速に増えている。AI企業がコンテンツを取得するために送り込む自動プログラム「AIボット」だ。

AIがコンテンツに訪れるパターンは大きく二つに分かれる。ひとつは、AIモデルを訓練するために大量にクロールするパターン。もうひとつは、ユーザーがAIに質問するたびに、その答えを生成するために最新の情報を取りに行くパターンで、「RAG(検索拡張生成)」と呼ばれる。質問は日々無数に発生するため、アクセスの頻度は前者より後者が桁違いに高い。AIの利用が広がるほど、後者によるボットの訪問は増え続けていく。

四半期で約9割増──グローバルデータが示す、AIトラフィックの実態

こうしたAIによるトラフィックの実態をグローバルなデータで示したのが、4社共催のセミナーでおこなわれたNovoscribe共同創業者兼CEO、Toshit Panigrahi氏による基調講演だった。

同社が運営するTollBitはTIMEやAP、ADWEEKをはじめ、2026年5月時点で世界8,500以上のドメインに導入されており、四半期ごとに「State of the Bots」レポートとして業界動向を公開している。同セミナーで紹介された2025年第4四半期のデータには、業界関係者にとって衝撃的な数字が並んだ。

ひとつは、AIから返ってきた答えに参照元のリンクがついていても、そこをクリックしてメディアを訪れるユーザーは、Google検索からの訪問と比べて96%も少ないこと。答えがすでに手元にある以上、わざわざ元の記事まで読みに行くユーザーはほとんどいない。
もうひとつは、サイト側が「クロールしないでほしい」と明示するファイル(robots.txt)を無視したAIボットからのアクセスが、同四半期だけで17億回に上ったこと。意思表示をしても、それを尊重しないボットが大量に存在する現実が浮かび上がった。

そして、AIボットが記事の内容を取得するスクレイピングの総量は、前四半期と比べて88%増。3カ月でほぼ倍に膨らむペースだ。

「日本のメディアの状況は、米国よりおよそ12カ月遅れていると感じます」とPanigrahi氏はセミナーで語った。米国のメディアが1年前に直面していた変化が、今日本に到達しつつあるというのだ。

「三重苦」に直面するメディアと、揺らぐ広告ビジネス

国内のメディアの現場では、これをどう受け止めているのか。日本ビジネスプレス代表取締役社長の菅原聡氏は、今メディアが置かれている状況を「三重苦」と表現する。

Googleなどのプラットフォーマーが検索結果のページ上でWeb上の情報の要約を表示するようになって以来、ユーザーがメディアに訪れる機会は減り続けてきた。さらにプラットフォーマー側のサイト評価アルゴリズムが変わるたびにアクセス数が大きく上下する不安定さもある。そこへAIによる無断利用が加わった。
「ボットがサイトに殺到してインフラを消耗させながら記事を持ち去り、しかも送客がないのでPVも減る。従前のプラットフォーマーから受けてきた苦しみと、AIによるタダ乗り、PV減少による収益悪化という3つが同時に起きています」

実際、日本ビジネスプレスではTollBitを自社サイトに導入してモニタリングを進めているが、200リクエストに1回しかAIからのリファラルによる流入が生まれていないという。「ゼロクリックという現象が、感覚だけでなく定量的にも見えてきました」と菅原氏は続ける。

さらに菅原氏はこの「PV減少」がもたらす真の痛手について、単なるアクセス数の低下にとどまらないと警鐘を鳴らす。「PVが失われるということは、会員登録への導線や、他のコンテンツへの回遊、ブランドとの接点、そしてデータ取得の機会など、メディアが『濃いビジネス』をするために必要な要素がすべて絶たれてしまうということです」

ただし、影響の受け方はメディアの種類によって差がある。新聞・雑誌・テレビなど30社超の有力メディアとBI.Garageが共同で運営するプライベートマーケットプレイス「クオリティメディアコンソーシアム」の事務局長を務め、業界横断で国内メディアの動きを見てきたBI.Garage特命顧問の長澤秀行氏が、各プレーヤーの温度差を整理する。

長澤氏によれば、最も敏感に反応しているのは新聞社だという。
「ページビューが落ちるよりも、まず著作権を持つコンテンツが勝手に改変されて読者に提供されることに対して、ジャーナリズム的な視点として許せないという気持ちが強い」と分析する。

一方、出版社の反応は規模によって分かれると、日本ビジネスプレス執行役員の長島章夫氏は補足する。新聞社を親会社に持つ出版社は、新聞社と歩調を合わせてAIへの対応を進めているが、手を打てずにいる独立系の出版社も多い。中小規模の出版社に至っては、そもそも何が起きているか把握できていないケースも多いという。

例外的に動きが早いのが、IPを持つ大手出版社だ。コミックやアニメの画像・動画が無断で学習に使われることへの危機感は強く、業界として協会を組成してディフェンシブな対応を進めている。

また、企業規模だけでなく「コンテンツの質」もAIから受ける影響の差に大きく関係していると菅原氏は指摘する。
「新聞社が扱うようなファクトベースのストレートニュースや実用情報は、AIの回答に使われやすいため死活問題になります。一方で、出版社が得意とする知的好奇心を満たすような『読み物』的コンテンツは、読者がある種のエンタメ体験そのものを楽しむため、AIにそのまま回答として使われる性質のものではありません。同じメディアでも、コンテンツの質が違えばAIからの影響も戦い方も変わってくるのです」

また、問題はコンテンツ盗用やPV減少だけにとどまらない。BI.Garage代表取締役CEOの新澤明男氏が懸念するのは、「優良なクライアントが優良なコンテンツに広告を出すことでマーケットが支えられる」という広告ビジネスの構図そのものが、足元から崩れつつあることだ。

「Google検索から人が誘導されることで、メディアは収益機会を得られていました。健全かはともかく、共存関係はあった。ところがAIが記事を勝手にスクレイピングして、その経済圏を壊そうとしている。広告業界に携わる人間として、これはなんとかしないといけないという危機感があります」

国内メディアの試行錯誤、3社それぞれの現在地

では、具体的にメディアはどのように対応を進めているのか。4社共催のセミナーでは、日本国内の3つのメディアがそれぞれの立場から、その最前線の様子を共有した。

サイバーエージェントが運営するブログプラットフォーム「アメーバブログ」を手がけるAmebaLIFE事業本部・星博之氏は、UGC(ユーザー生成コンテンツ)サービス特有の悩みを語った。
「短期的には、AIが記事を要約して回答に取り込むことでブログそのものが読まれなくなる『コンテンツ埋没』の脅威があります。一方で長期的には、AIには真似できない実体験(食事を楽しむ、好きな服を着るなど)をベースにブロガーが書く一次情報の価値は、むしろ上がるとも見ています」

AIによるアクセスを一律にブロックすれば、AIツールを通じてブログを多くの人に届けるという経路を、自ら閉ざすことになりかねない。星氏は現状を次のように説明する。
「正直、ひたすら迷っているという感じです。モニタリングしながら、何ができるかを徹底的に調べている段階で、判断するための情報がまだ足りない。収益化を含めて、具体的な未来像をもう少し描いていかないといけないと考えています」

東洋経済新報社マーケティング局の髙見一氏は、一歩踏み込んだ動きを見せている。同社が早期に整えたのが、コンテンツのライセンス販売体制。狙いは、AI企業による無断学習の抑止だ。「ライセンス販売をしている事実が、著作権法上の保護要件になります」と髙見氏は語る。

同時に、AI時代に同社が向かう独自路線も語った。
「我々は、スピードやネットワークではなく、解釈性や付加的な情報によって存在感を出してきました。その強みを軸に、独自の視点や提供するサービスを通じて、読者にどう親近感を持ってもらうか。読者のファン化、メディアと読者の関係性そのものを拡張していく方針です」

中国新聞社メディア開発局部長の園部貴之氏は、地方紙の立場から未来を見据える。
「ニュースはこれから、人に読まれるものではなく、AIに使われるものになります。記者が書いた記事をAIがイラストや動画、音声に加工して、読者に最適なかたちで届ける時代が来る。今のニュースサイトの形式は不要になるかもしれませんが、元ネタがないとAIも力を発揮できないので、ジャーナリズムの重要性は変わりません」

同社は新聞協会と足並みを揃えながら、自社サイトの利用規約にAIによる無断利用の禁止を明記し、技術的にもアクセスを拒絶する対応を進める一方、AI企業へのライセンス付与による収益化も検討しているという。

AIトラフィックの問題に直面していても、媒体の性格や読者層によって、各社の取りうる対応は明確に異なる。「自社にとっての最適解」を見つけるには、まず現状を可視化して把握することが出発点になる。

個別の試行錯誤の先に共通して見えてくるのは、AIに対してメディアが主権を取り戻すという方向性だ。記事を勝手に持ち去られる立場から、利用条件と対価を自ら設計する立場への転換を、業界としてどう実現するのか。

後編では、AIとメディアが「公正に共存」するためにどのような仕組みが必要か、そしてマネタイズの発想をどう変えていくべきか、議論を追っていく。

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