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【HooK #2】加速する北海道のスタートアップ・エコシステム──新しい拠点は世界進出の足がかりとなる

2026年7月15日、札幌市中央区の複合施設「アーバンネット札幌リンクタワー」に、スタートアップ支援施設「HooK(フック)」が誕生。コワーキングスペース、スモールオフィス、イベントラウンジを兼ね備えた拠点であり、スタートアップはもちろん、投資家、行政の窓口までが集まる場所となっている。

前編では、2026年8月20日に開催されたHooKのグランドオープンイベント「HooK Opening Meetup」の様子を紹介した。会場では、北海道で事業を広げる起業家と、スタートアップに投資する投資家が、それぞれの立場から北海道の可能性を語った。

後編では、HooKの運営メンバーへのインタビューを通じて、札幌中心部最大級(※)の拠点が生まれるまでの経緯を紐解き、北海道のスタートアップ・エコシステムの未来を考える。

※札幌市「第2次都心まちづくり計画」において位置付けられる「都心強化先導エリア」内に所在する同様施設のフロア面積比較において最大級(2026年5月時点)


<Speakers>
株式会社デジタルガレージ 執行役員 / 株式会社DGインキュベーション取締役 / HooK シニアアドバイザー 佐々木 智也
HooK インキュベーションアソシエイト 村上 文哉
HooK インキュベーションアソシエイト 尾﨑 麻衣

(所属・肩書は公開時点)


2018年から始まった、北海道スタートアップ・エコシステムの醸成

HooKの土台には、デジタルガレージグループが長年にわたって積み重ねてきた、北海道での取り組みがある。出発点は、2018年に遡る。デジタルガレージグループは、東京で運営していた「Open Network Lab」のノウハウをもとに、北海道初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab HOKKAIDO」を立ち上げた。同プログラムは2026年で9期目を迎え、いまもなお続いている。

立ち上げ当初はデジタルガレージと株式会社北海道新聞社が設立した合弁会社の株式会社D2 Garageが運営を担い、現在は株式会社DGフィーリストへと引き継がれている。HooK インキュベーションアソシエイトの村上文哉は、立ち上げ当時の北海道の状況を振り返る。

「当時の北海道には、スタートアップがあまり育っていませんでした。起業を志す若者は北海道にもいるはず、そんな若者たちを支援する環境が必要だ、という考えのもと、Open Network Lab HOKKAIDOが誕生しました」

Open Network Lab HOKKAIDOは、Theme「北海道の課題解決に取り組むスタートアップを支援する」のもとで、8年間にわたって続けられてきた。村上は、「北海道で」にこだわっていると語る。

「農業、漁業などの一次産業、観光、教育格差、介護(高齢化)、バイオ・ヘルスケア領域などを中心に、北海道の産業や地域の課題と結びつけば伸びる事業は多くあります。そうした芽を取りこぼさず、北海道に合った事業支援をするうえでOpen Network Lab HOKKAIDOは重要な存在です」

実際に、東京のOpen Network Labで惜しくも落選した観光分野の事業が、北海道の観光振興を担う組織との協業をプランに加え、Open Network Lab HOKKAIDOの支援対象になった例がある。また、すでに数億円規模の売上をもつ道内企業が、第二創業としてスタートアップ的な成長を目指すためにOpen Network Lab HOKKAIDOのプログラムを利用したケースもある。

村上は「広大な実証フィールドや地域課題のヒアリングを求めるスタートアップを北海道の文脈で受け入れる側面と、北海道に根ざしているからこそ生まれる出会いの両方が、Open Network Lab HOKKAIDOの魅力になっている」と話した。

さらに、デジタルガレージは札幌市、北海道、北海道経済産業局の3行政が一体となりオール北海道体制でスタートアップが生まれ育つ環境をつくる「STARTUP HOKKAIDO実行委員会」の設立にも携わった。

村上「当時は複数の行政機関が、それぞれ別々でスタートアップ支援に取り組んでいました。限られたリソースで同じような施策を複数動かすよりも、みんなで力を合わせた方が手厚い支援を提供できます。そこで、スタートアップ支援を一本化するための組織として『STARTUP HOKKAIDO実行委員会』が立ち上がりました。また、そのメンバーにD2 Garageも加わることになったのです」

さらにD2 Garageは2020年7月、スタートアップ支援を目的に北海道最大級のコワーキングスペース「SAPPORO Incubation Hub DRIVE」の運営も、北海道新聞社の本社ビル2階で始めた(2024年5月末閉店)。

同施設の利用企業のうち一社が、後に急成長を遂げる株式会社タイミーだった。佐々木は、当時の関わりを振り返る。

「タイミーがまだ上場する前、北海道で最初に採用した社員がDRIVEに常駐し、そこから道内へ広がっていきました。ちょうどコロナ禍の時期で難しい環境ではありましたが、ネット通販の物流倉庫や工場など、人手が必要な道内の企業を紹介しました。

採用支援もさせていただいた結果、短期間で大きくなり、2022年には北海道支社を開設して、DRIVEを巣立っていきました」

そのようなDRIVEの実績は、次の展開を呼び込んだ。アーバンネット札幌リンクタワーのオーナーであるNTT都市開発株式会社からデジタルガレージグループに声がかかり、新しいスタートアップ支援施設の運営を任されることになった。その施設こそ、札幌のスタートアップ拠点HooKだった。佐々木は、当時期待されていた役割を次のように振り返る。

「DRIVEでのオープンイノベーションの実績や集客力をNTT都市開発さまに評価いただき、オープンから3〜4年も前の計画初期段階から『新しい施設についての構想をコンサルティングしてほしい』とお声がけをいただきました。

そのうえで、まず、北海道でスタートアップが生まれやすい環境をつくる。そして、誕生したスタートアップが事業成長のきっかけになる出会いやアイデアを得られ、先輩方からアドバイスももらえる。『ここに来ればなにかがある』という場所をつくってほしいというのが、NTT都市開発さまからの期待だったと感じています」

デジタルガレージグループはHooKの構想から携わり、開設後はグループ企業の株式会社DGフィーリストが運営を務めることになった。

事業成長に欠かせない、人と情報が集まる拠点

2025年9月、札幌市とNTT都市開発は「スタートアップ支援に関する連携協定」を締結。それまで札幌市役所内に拠点を構えていた「STARTUP HOKKAIDO実行委員会」が、HooKの3階へ移った。HooK インキュベーションアソシエイトの尾﨑麻衣は、同実行委員会の同居がもたらす効果は大きいと語る。

「『STARTUP HOKKAIDO』が定期的に開催する起業相談会を、HooKで開催できるようになりました。同相談会では、資金調達や事業計画に加えて、起業に関するあらゆる悩みについて、弁護士をはじめとする専門家の方々に相談できます。さらに、相談会外のタイミングでも、私たちHooK運営メンバーが会員と実行委員会メンバーをお引き合わせできるようにもなりました」

また、HooKは、利用者同士の交流促進にも力を入れており、定期的に大小さまざまなイベントを開催している。

尾﨑「HooKでは、外部の方も含めたオープンなイベントと、会員さま向けのクローズドなイベントの両方を実施しています。2階と3階では会員同士の交流を目的とした小規模なイベントをおこない、4階のイベントラウンジでは外部の方も招く大規模なイベントをおこなう、という使い分けです。

オープンなイベントだと、直近はグランドオープンイベント『HooK Opening Meetup』が大盛況で、スタートアップの方々はもちろん、投資家や学生など多くの方々にお越しいただきました。

クローズドなイベントは入居者同士やHooK運営メンバーとの交流を目的に、定期的に開催しています。つい最近も、HooKから入居者の方々に美味しいコーヒーを提供する、ちょっとした会を開いたばかりです」

こうしたコミュニティ形成や施設運営を支える手厚いサポート体制もHooKの大きな特徴だ。現場では、パートナー企業でDGインキュベーションの投資先でもある株式会社ATOMicaが受付やコミュニティマネージャーとして空間づくりやイベント企画を担う。そして、運営会社である株式会社DGフィーリストのメンバーがインキュベーションスタッフとして常駐し、入居者と行政・投資家等をつなぐハブ機能を果たしている。

さらに尾﨑は入居者から見たHooKの特徴的なポイントとして、札幌中心部という立地と賃料補助制度を挙げた。

「札幌は天気が乱れやすく、冬も長いですが、HooKは地下歩道と直結していて、大雪の日でも行きやすいです。また、北海道で利用者数がとくに多い札幌駅と大通駅のちょうど中間で、どちらの駅からもアクセスのしやすいところは、入居者の方々からご好評いただいています。

加えて、1階と地下1階は飲食フロアになっており、コンビニエンスストアを含めてこれから順次開業予定です。仕事の合間に食事や買い物ができるようになります」

さらに、利用環境の面では法人会員プランの利便性の高さも好評を得ている。東京など道外に本社を構える企業が、札幌にサテライト拠点を求めるケースに対応した設計になっているためだ。

尾﨑「法人会員であれば、1つの契約・カードを社内で使い回していただくことができます。出張で訪れる異なる社員の方々が交代でスムーズに利用できるため、道外から進出を図るスタートアップからの引き合いも非常に増えています」

費用面の支援制度も用意されている。HooKが入るアーバンネット札幌リンクタワーは札幌市から『ゼロカーボン推進ビル』の認定を受けており、条件を満たすスタートアップは賃料補助制度を活用できる可能性がある。尾﨑は「創業期のスタートアップにとって家賃負担は大きな課題ですが、こうした制度も追い風にして、ぜひ札幌中心部に拠点を構えてほしい」と期待を寄せる。

最後に、尾﨑は今後の展望についても語った。

「ありがたいことにいま、会員は毎週のように増え続け、入居者同士が自然に交流する光景もよく見かけるようになりました。今後は、さらに提供価値をプラスするために、新しい取り組みを考える段階です。たとえば4階のイベントラウンジの稼働率を上げ、外部の方々に注目いただく仕掛けもいいと思います。

また、2階のコミュニティスペースや、旧HBC(北海道放送)本社跡地という歴史的ゆかりから設置されたポッドキャスト収録ブースなどおもしろい使い方ができる場所は多くあります。それらを活かしながら、HooK会員の方々のためになる取り組みを続けていければと思っています」

投資先の進出支援、自社事業の展開など、デジタルガレージグループにとっても大きいHooKの価値

HooKは、会員企業のためだけの拠点ではない。運営に携わるデジタルガレージグループにとっても重要な施設だと、村上は語る。

「私たちにとっての価値は大きく2つです。1つ目は、投資先が北海道へ進出するときの拠点として使えること。

北海道は実証のフィールドとして適していますが、広すぎてどこへ行けば会いたい人に会えるのかがわかりにくいです。1回の出張で札幌には行けても、観光ならニセコ、農業なら別エリアと、行くべき場所も会うべき人も散らばっています。そこにHooKがあり、話したかった相手とも会えれば、投資先の活動拠点として、北海道進出の手助けになると考えています。

2つ目は、道内の自治体や企業との接点が生まれることです。

これから先、おもしろいスタートアップがHooKに集まれば、多くの自治体の方々から視察に来てもらえます。すると、スタートアップと自治体との連携が生まれ、ますます魅力的な拠点になるという好循環が生まれます。その結果、『北海道で何かをやるならまずHooKに行こう』という流れができるはずです。そうなれば、会員企業だけでなく運営企業である我々にも、自治体をはじめとする多くの方々から相談をいただけるようになり、これまでつながれなかった方々との接点も生まれるのではないでしょうか」

すでにデジタルガレージグループは、モバイルオーダーサービス『Pangaea Order』の飲食店導入や、札幌市水道料金の決済基盤採用など、道内で実績を積み重ねてきた。HooKの誕生により、これらグループ事業の営業や実証実験をさらに戦略的に加速させる足場が整ったと言える。

村上は、北海道のポテンシャルについても語った。

「今後は世界中でますます、IoTやフィジカルAIの領域で、新しいプロダクトやサービスの開発が進むはずです。実証には広いフィールドが必要で、その点北海道は大きな可能性をもっています。

また、北海道はこれまでも、道外の流行を受け入れる側になることが多かった地域であり、起業家による新しい挑戦も受け入れられやすい場所です。とくにHooKには、新しいものをおもしろがる人たちが揃っています。起業家のみなさまには、ぜひHooKを活用して、北海道という広大なフィールドで世界を驚かせる挑戦をしてほしいです」

HooKを起点に、北海道から世界へ進出するチームを生み出す

佐々木はHooKの会員が道内にとどまらず、全国に広がっている点に手応えを感じている。

「札幌周辺のスタートアップはもちろん、東京のスタートアップが来道したときに使うケースも増えてきました。北海道で事業を広げる担当者が常駐したり、北海道に住んでいるCTOが日常的に使ったりという例もあります」

これから先、佐々木が見据えているのは、人の流れの逆転である。

「現状は、先日のグランドオープンイベントでご登壇いただいた、newmoやmatsuri technologiesのように、東京の会社が北海道で事業を広げるためにHooKを活用するケースが多いです。今後は逆に、北海道で立ち上がった会社がHooKを起点に東京や仙台、九州へ拠点を広げる流れも生まれると考えています」

流れを生むために欠かせないのが、実際に見て、触れる機会だと佐々木は言う。

「東京で急成長しているチームのスピード感や意思決定の早さは、やはりまったく違います。北海道の起業家にも、同じ空間で見て、触れてほしい。HooKに東京のスタートアップが集まる状態は、そのまま北海道の起業家にとっての学びの機会にもなるはずです」

北海道が人口減少の影響を早く受け、課題先進地域であることも追い風だと、佐々木は捉えている。

「地方ほど人手不足は深刻であり、新しい仕組みを導入する動きが早いです。たとえば北海道の場合だと農業分野において、不足する人手をロボットで補い、経験ではなくデータをもとに作物を栽培する仕組みを、全国に先駆けて導入する地域になるのではと考えています。実際に、収穫ロボットを開発するスタートアップが、ビニールハウス栽培の無人化を打ち出すなどの取り組みが進んできています。」

北海道では、次世代半導体の量産を目指すRapidus株式会社が千歳市に工場を建設するなど、産業構造そのものが変わるようなダイナミックな動きも生まれ始めている。新しい産業が集まる地域に、拠点をもつことは、デジタルガレージグループの強みにもなる。

最後に、北海道で挑戦を始めたい人に向け、佐々木は力強くメッセージを語った。

「まずはHooKに足を運んでみてください。常に何かしらのイベントを開催していますので、ぜひご参加ください。一緒に挑戦するスタートアップを、私たちはいつでも待っています」

2018年に始まった一つのプログラムは、8年を経て、行政も投資家も起業家も集まる一棟のビルへとつながった。HooKで生まれた出会いが次の事業を生み、北海道発の企業が全国へ、そして世界へと羽ばたく日は、そう遠くないだろう。

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