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【後編】強いブランドに共通する5つの要素──レイ・イナモトが語る、選ばれ続けるブランドの条件

世界的クリエイティブ・ディレクターであり、書籍『ブランド・シフト:「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』の著者でもあるレイ・イナモト氏は、ブランドを「信頼による差別化」とあらためて定義した。

前編では、これからの時代のブランド構築モデル「ブランドのフライホイール」とは何か、USP(独自の機能)からPOV(独自の視点)へのシフトの重要性など、選ばれ続けるための発想の転換について聞いた。

後編では、自社の魅力を見つけて磨くための手がかりとして、強いブランドが例外なく備えている5つの要素を解説いただく。あわせて、世界で活躍するイナモト氏の今後の展望についても伺った。


<Speaker>
I&CO 創業パートナー/クリエイティブ・ディレクター レイ・イナモト

Creativity誌「世界の最も影響のある50人」、Forbes誌「世界広告業界で最もクリエイティブな25人」に選出。ニューヨークを起点に活躍するクリエイティブ・ディレクター。米大手デジタルエージェンシーR/GAを経て、欧米大手デジタルエージェンシーAKQAに所属し、NIKE、Audi、XBOX、Googleなど、世界を代表するブランドのデジタル戦略とクリエイティブを数多く手がける。2013年と2019年には日本人として初めて、カンヌ国際広告祭モバイル部門、デジタルクラフトの複数部門の審査委員長に抜擢。2016年にI&COを立ち上げ、2019年7月に東京オフィス、2024年4月にシンガポールオフィスを開設。2026年5月に、新著『ブランド・シフト ―「信頼」で選ばれる時代の成長戦略―』(東洋経済新報社)を刊行。

(所属・肩書は公開時点)


ブランド構築の第一歩は、すでにある自社の魅力に気付くこと

長年、多くの企業のブランド構築に携わってきたイナモト氏は、強いブランドをつくるための第一歩は、すでにある自社の魅力に気付くことなのだと言う。

「たとえば『売上が良くないのでブランディングを手伝ってほしい』というご相談をいただくことがあります。ただお話を伺うと、外に何をどう発信するか以前に、その会社にしか言えない魅力が言語化されていないケースも多いです。

外から客観的に見ると、ダイヤモンドの原石が会社のなかに隠れていることが実はよくあります。我々は新しい価値をつくるというよりも、すでにあるものを見つけて、一緒に磨くことでブランド戦略を立案することが多いです」

会社の根底にある思いをブランド構築に採り入れた事例として、イナモト氏はパナソニック コネクト株式会社の事例を挙げた。

「たとえば、パナソニックグループのBtoB事業が独立して誕生した新会社パナソニック コネクトは、デジタルガレージと同じように事業領域が非常に広い会社でした。そのため、何の会社なのかを理解してもらいにくい状況でした。

ヒアリングを重ねるうちに同社の根本には、現場に深く入り込み、イノベーションを起こす姿勢があるとわかりました。そこで、顧客起点でお客さまの「現場」に貢献する新しいソリューションを提供する企業集団と自らを定義し、Purpose「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」を掲げることにしたのです。

同社は、競合他社がひしめくなかで、「ソリューションを売る会社」という一般的な枠組みから脱却し、現場をイノベートする会社という独自のポジションを確立しました。その結果、他社との差別化に成功しています」

また、I&COが長年伴走してきた株式会社アシックスの場合も、創業から受け継いできた思いに立ち返ることで、さらなる成長が実現できたとのことだ。

「競合ブランドにあたるナイキは『If you have a body, you are an athlete.(=体ひとつあれば、誰もがアスリートだ)』という前提のもと『世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと』をミッションに掲げています。

アシックスも装着した人のパフォーマンス向上はもちろん意識しています。しかしそのうえで『いかに怪我をせずにスポーツを続けられるようにするか』をとくに重視した開発をしていると、多くの社員の方々との対話で気付きました。

そもそも、アシックスという社名は、ラテン語の「Anima Sana In Corpore Sano(健全な身体に健全な精神があれかし)」に由来します。顧客の怪我のリスクを下げ、いつまでも健康にスポーツを続けてもらいたいという思いは、創業時点から社名に刻まれていたのです。

そこで生まれたのが、『Lifetime Athletes in All of Us(=誰もが一生涯アスリート)』という共通言語でした。アシックスはターゲットをプロや競技アスリートに限定せず、「日々自らの限界に挑み、自分を超えようとするすべての人(=一生涯アスリート)」と再定義し、一人ひとりの人生に寄り添うスタンスを示したのです」

共通言語の策定がおこなわれたのは2018年から2019年ごろ。同社の業績は、2021年ごろから大きく上昇に向かった。さまざまな要素が重なって生まれた結果だが、共通言語の設定が貢献した部分も大きいと考えられる。

強いブランドに共通する5つの要素

自社の魅力を発信しきれていないという課題は、日本企業全体に共通するとイナモト氏は考える。選ばれ続ける理由をどう設計すればよいのか。イナモト氏は、強いブランドが例外なく備えている要素として、「象徴」「代名詞」「目に見える(可視化)」「美意識」「敵」の5つを挙げる。

「象徴」とは、ブランド名を聞いたときに思い浮かぶ人物やプロダクトを指す。Appleであればスティーブ・ジョブズとiPhone、エルメスであればバーキンバッグ、ユニクロであればフリースやヒートテックが該当する。OpenAIとChatGPTの関係も同じ構図にある。

「代名詞」は、「○○といえば△△」の一言で語られる位置づけのことだ。イナモト氏は、「プロダクトレベル」と、より視座の高い「抽象的なイメージレベル」の抽象度の異なる2つのレベルを同時に設計する必要があると語る。

「Appleには、『AppleといえばiPhone』というイメージと『Appleといえば革新的な企業』という、より抽象化されたイメージがあります。ブランド構築の際は両方を同時に考えなければいけません。トヨタの場合も、カローラやプリウスというプロダクトレベルのイメージがあり、その根底に『トヨタといえば安全』というより抽象度の高いイメージがあります」

「目に見える(可視化)」とは、目に見えない価値や思想を、実際にかたちにすることである。ダイソンの掃除機に採用された透明なダストボックスは、ゴミがたまる様子を見せることで吸引力への自信を視覚化した。ナイキのエアマックスも、靴底の内部に隠れていたエアクッションをあえて外から見えるようにしている。ChatGPTもまた、目に見えないAIという技術を、質問すれば即座に応答が返る体験として見えるようにした。

可視化の難しさは、イナモト氏自身も経験している。代表を務めるI&COはクライアントごとに異なる価値を提供するため、何をしている会社なのか外からはわかりにくい。業務の性質上、公にできない仕事も多い。だからこそ、書籍『ブランド・シフト:「信頼」で選ばれる時代の成長戦略』を出した意味は大きかったと語る。

「会社設立から10年かかりましたが、本という目に見えるモノができたことで、何をやっている会社なのかがより伝わるようになりました。刊行から2ヶ月ほどで、問い合わせが増えています」

「美意識」は、AI時代にとりわけ重みを増している要素だ。

美意識とは、見た目の良さではなく、何を選び、何を削ぎ落とし、どう表現するかという企業独自の美学や判断基準の連続そのものを指す。AIが無限に選択肢を生み出す時代において、何を選ぶかという判断こそ、人間にしかできない重要な意思決定である。

最後の「敵」とは競合企業のことではなく、自社が「よしとしないもの」を指す。あえて対比軸を定めることで、ブランドは「何かに立ち向かう存在」として語れるようになる。「私たちはこの考えには賛同しない」「こういう世界は望まない」と示すことで、ブランドの立ち位置が一層ハッキリするのだ。

東京発のバウハウスへ──I&COが目指す姿

最後にイナモト氏に、I&COの今後について聞いた。直近の目標は東京オフィスを「東京発のバウハウス」にすることだと言う。

「バウハウスは1919年にドイツに誕生した学校です。さまざまな種類のアートや建築を同じ場所で教育することによって、お互いの化学反応や融合を起こそうとしました。ナチスの弾圧によりわずか14年で閉校しましたが、その影響は100年経ったいまでもデザイン業界に及ぼし続けています。

同じように私たちも東京から世界に貢献し、影響力のある存在になりたいです。我々の場合、融合させるのはデザインとテクノロジーや、クリエイティブとテクノロジーです。異なるものを掛け合わせ、次の時代に求められる新しい仕組みをつくっていければと思っています」

さらにイナモト氏は、日本の未来に対する思いを語った。

「日本は素晴らしい国だと思いますし、私も日本が大好きです。ただ、日本企業が昔のようにグローバルのステージで存在感を出せていないのは非常にもったいないと思います」

イナモト氏は書籍をはじめ、さまざまなシーンで「Make Japan Matter」(=日本を世界で必要不可欠な存在にする)が、彼自身にとってのミッションの一つであると語る。

誠実なモノづくりの精神に対する世界からの信頼、いわゆる「Brand Japan」は、いまも高く保たれている。しかし、国全体に向けられた信頼は、個社のブランド価値へ十分に昇華されていない。

2016年にI&COを立ち上げた際、イナモト氏は日本の未来は日本企業が積み上げるブランド力にかかっている、と確信していた。自身を、政治家でもインフルエンサーでも、日本を牽引するリーダーでもないと語る一方で、経営者たちとともに未来を考えることで日本の前進に寄与できると信じている。

「私一人では『Make Japan Matter』の実現は難しいです。しかし、デジタルガレージや日本を代表するさまざまな企業さまとご一緒し、支援をさせていただくことで、日本の未来に貢献できると思っています」

「Make Japan Matter」は決して一部の大企業だけで成し遂げられるものではない。あらゆる日本企業が自社のブランドを磨き、世界で認められた先にある。その実現のためには、ビジネスやブランドに携わる一人ひとりが、意思をもって選択を積み重ね、顧客の信頼を勝ち取り続けることが求められるのだ。

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